| 実存主義への非難に応えたサルトルの講演と討論からなる入門書.本書は実存主義の本質を伝え,その思想がヒューマニズムに直結することを明快に描いている.今回改版にあたり,その発想を具体的に示す初期作品を5点増補した.サルトル哲学理解への新たなアプローチのための必読書――. |
戦後フランスにおける思想的混乱の渦中に登場し,実存主義をめぐる誤解を解きほぐし,同時に新たな論争の火種ともなった短くも濃密な一書.1945年10月,パリのクラブ・マントナンで行われた一般向け講演の内容に基づいている.ジャン=ポール・サルトル(Jean-Paul Charles Aymard Sartre)はこのテクストで,有名な命題「実存は本質に先立つ(L’existence précède l’essence)」を掲げる.すなわち,人間にはあらかじめ定められた「性質」などというものは存在せず,むしろ各人がその行為を通じて自らを構築するのだという,根本的な自由と責任の思想である.
サルトルにとって,この立場は神の不在を前提とするものであり,それゆえに人間は「自ら選ばざるを得ない存在」「自由という刑に処されている」存在として,根源的な孤独と向き合うことを運命づけられる.講演の中で紹介される例――ドイツ占領下のフランスにおいて,祖国のために戦うか,あるいは老いた母の世話をするかで板挟みになる青年――は,選択の困難さと責任の重さを描き出す.神も,倫理も,感情も,青年に正しい道を示してはくれない.彼は自ら判断し,決断する他ない.この決断が,人間性とはかくあるべきという像をも同時に生み出すというのがサルトルの主張である.ここには,思想としての実存主義が持つ過酷さと魅力が凝縮されている.
一般に,自由とは望ましいものとされるが,実存主義において自由とは苦しみの源泉である.選択の重圧であり,失敗の言い訳が許されない状況でもある.サルトルのいう楽観的厳格さ(la rigueur optimiste)とは,逃げ場のなさを受け入れた上で,それでもなお世界に関与することの意志である.批判的に見るならば,本書の実践的応用には疑問が残る.完全な自由や全責任などという前提自体が現実には成立しがたく,現代的視点からは構造的な不平等や無意識的動機が考慮されるべきだという異論もある.サルトル自身が後年マルクス主義へと傾斜していく中で,この自由至上主義的立場を修正していくことからも,本書の立場が晩年の思想とは異なる暫定的なものであることがわかる.
とはいえ,本書が現代に至るまで読み継がれているのは,その鮮烈な宣言性と,思索を促す力ゆえである.サルトルはこうも述べる――「人間は,自分以外の何者かに責任を転嫁することで,自らを欺く存在だ」.講演が行われた当時,聴衆の中には後に構造主義者として頭角を現すレヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss)も含まれていたという.ストロースはのちにサルトルの人間中心主義を「哲学的ロマン主義」として批判することになるが,まさにこの講演が,戦後フランス思想のダイナミズムの起点の一つとなったのである.
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Title: L'EXISTENTIALISME EST UN HUMANISME
Author: Jean Paul Sartre
ISBN: 4409030426
© 1996 人文書院
