| 選手からフロントに転身し,若くしてメジャーリーグ球団アスレチックスのゼネラルマネージャーとなったビリー・ビーンは,自分のチームの試合も観なければ,腹が立てば人やモノに当たり散らす短気で風変わりな男.ある時,ビリーは,イエール大学経済学部卒のピーターと出会い,彼が主張するデータ重視の運営論に,貧乏球団が勝つための突破口を見出し,周囲の反対を押し切って,後に"マネーボール理論"と呼ばれる戦略を実践していく…. |
ベースボールとは,27個のアウトを奪われたチームが敗者となるシンプルな構造ながら,勝敗を左右する本質はフィールド外――すなわち経営戦略にこそある.2000年代初頭のメジャーリーグは,年俸総額において極端な格差が広がっていた.2002年の年俸ランキングではニューヨーク・ヤンキースが約1億2500万ドルに対し,オークランド・アスレチックスはわずか4100万ドルほどで,リーグ30球団中26位.この不均衡な資金環境では,従来型のスター選手の高額買い付けというモデルは機能しない.
GMビリー・ビーンは,セイバーメトリクス(Sabermetrics)――統計解析に基づく選手評価――を徹底導入する.従来のスカウトが重視してきた打率ではなく,出塁率や長打率,両者を加味したOPS(On-base Plus Slugging)を指標とし,得点期待値と勝利貢献度を科学的に測定した.ビーンは「打率.250だがOBP.380」の選手を,華やかな長打力の持ち主よりも高く評価し,過小評価されてきた人材を低年俸で獲得していった.その結果,2002年のアスレチックスは20連勝というアメリカンリーグ新記録を達成.統計モデルに基づくリスクマネジメントの成果であった.
高出塁率の打者は得点機会を増やし,変動の大きい単発の長打頼みの攻撃よりも安定した勝率を生む――金融ポートフォリオ理論の「分散投資」にも似た発想である.この理論は,ビーン自身の挫折から生まれた.高校時代,破格の契約金を提示され大学進学を蹴ってプロ入りしたものの,期待されたほどの成績を残せず引退.その経験は才能の見込みと現実のパフォーマンスの乖離を痛感させ,数値で裏付けられた選手評価の必要性を確信させた.
ボストン・レッドソックスはGM史上最高額となる年俸1,250万ドルで彼を招聘しようとしたが,ビーンはこれを辞退しアスレチックスに残留.皮肉なことに,翌2004年にレッドソックスはマネーボール的戦略を取り入れ,86年ぶりのワールドシリーズ制覇を果たす.映画に登場する「ピーター・ブランド」は実在のポール・デポデスタ(Paul DePodesta)をモデルとしているが,彼は自身の描写に納得せず名前の使用を拒んだという.スポーツ映画でありながら経営戦略論・統計解析・人間ドラマが三位一体となった異色作には,資金格差の荒波を数理と信念で乗り越え,抵抗勢力に迎合せず理論を貫く者だけが掴む成功の不文律が刻まれている.
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原題: MONEYBALL
監督: ベネット・ミラー
133分/アメリカ/2011年
© 2011 Columbia Pictures Industries, Inc.
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