| 湖に浮かぶ緑濃い小島.外界から閉ざされた空間で植物とともに暮らす植物学者のもとに,1976年の唐山地震で両親を失い,孤児院で育った女子学生,ミンが実習生として赴任する.遅刻したミンは到着するなり植物学者から怒鳴られ,翌日には薬草と毒のあるトリカブトを間違えてまた怒鳴られる.落ち込むミンをなぐさめたのは,植物学者の娘,アン.アンも10歳で母親を亡くし,厳格な父親に育てられ,寂しい毎日を送ってきた.お互いが育ってきた境遇に共感する二人は,次第に姉妹のような安らぎを覚えていく…. |
ベトナム北部ハロン湾の幽玄な自然美――石灰岩の奇峰群,霧に煙る水面――は,まるで宋代の山水画がそのまま動き出したかのような美術感覚だけで映画として成立してしまうほどである.だが,同時に本作は,表層的な美に頼りすぎてはいないかという疑問を抱かせる.父権の専制と同性愛という,中国社会においてタブー視されてきたテーマであるが,その提示はどこか予定調和的で,深い掘り下げを欠いている.
中国人の父とロシア人の母を1976年の唐山大地震で失ったミンが,雲南医科大学の植物学者チェン教授の家に実習生として寄宿するが,教授は典型的な家父長であり,家には母を早くに亡くした年頃の娘アンがいた.やがて2人の女性は孤独を分かち合い,友情を越えて愛情へと傾いていく.この関係は,やがて帰郷してきた教授の長男の存在によって不穏な影を帯びることになる.本作は,女性の同性愛を明確に描いたことで,中国での撮影許可が得られず,やむなくベトナム北部でロケが行われた.ハロン湾のロケーションは,中国の桂林と比しても遜色ないどころか,むしろ幻想性を強調するには最適であった.
主演俳優のキャスティングは難航を極め,中国国内の俳優はこの題材を恐れて出演を固辞し続けたという.結果として,主人公の一人をフランス人女優ミレーヌ・ジャンパノワ(Mylène Jampanoï)が演じることになり,その設定を合理化するためにロシアとのハーフという設定が脚本に加えられたのである.当時の中国映画界における検閲の強固さゆえに,作品にどこか異質なテクスチャーを与える要因ともなった.しかしながら,製作上の困難を乗り越えた努力が評価される一方で,脚本は緻密とはいいがたい.女性同士の愛を描くにあたって,感情の揺れや心理的葛藤が十分に積み重ねられていないため,関係の深化が唐突に映るのである.
ニューエイジ音楽で名を馳せたエリック・レヴィ(Eric Levi)が手掛けたスコアは印象深く,中国の弦楽器と打楽器を巧みに取り入れた音楽は,東洋的なエキゾティシズムを極限まで高めている.しかし,製作が4年間も出資先を探し続け,最後にはリュック・ベッソン(Luc Besson)率いるヨーロッパ・コープが企画を引き受けた経緯を鑑みれば,テーマ性だけでなく脚本面の完成度も高められたと感じざるを得ない.蒸気の立ちこめる温室に横たわるリー・シャオラン(Li Xiaoran)は,アジア的官能の化身ともいうべきものであり,対照的にヨーロッパ的な気配を漂わせるジャンパノワの存在が,その異文化的緊張を強調している.スクリプトの粗さはあっても,儚げな2人の美しさがすべてを浄化する.
++++++++++++++++++++++++++++++
原題: LES FILLES DU BOTANISTE
監督: Sijie Dai
98分/カナダ=フランス/2005年
© 2005 SOTELA ET FAYOLLE FILMS. EUROPACORP - MAX FILMS - FRANCE 2 CINEMA
![中国の植物学者の娘たち スペシャル・エディション [DVD] 中国の植物学者の娘たち スペシャル・エディション [DVD]](https://m.media-amazon.com/images/I/41vmY+SGAvL._SL500_.jpg)