■「カジノ」マーティン・スコセッシ

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 70年代のラスベガス.4つのカジノ経営を任されたエースは,大胆な方法で巨大な利益をもたらし,最終的にはラスベガスにおけるカジノ経営のあらゆるルールを塗り変える.そのエースが妖艶な魅力を放つ女ギャンブラー,ジンジャーに夢中になり結婚するが,彼女にはチンピラのヒモがいた.エースは幼なじみで裏世界のスゴ腕ニッキーに襲わせるが….

 0年代ラスベガスを舞台に,カジノ経営者ロススティーン,その妻ジンジャー,幼馴染で裏社会の実力者サントロの三者の歯車が軋みながら狂っていく.その過程は,繁栄と腐敗が同時進行するアメリカンドリームの光と影というほかない.マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)は,ナレーションの多用,モンタージュの連打,劇伴としてのクラシック・ロックの選曲など,自らが過去に磨き上げてきた映画的語法をさらに先鋭化させた.ひとつの出来事を複数のナレーションで語らせる多重的構造によって,観客はサムとニッキーという正反対の倫理観を持つ人物の視点を往復させられ,真実は常に曖昧なまま提示される.

 視点の相対性と記憶の編集性に対するスコセッシの一貫した問題提起であり,「グッドフェローズ」(1990)から継承された叙述技法である.本作は,ニコラス・ピレッジ(Nicholas Pileggi)によるノンフィクション"Casino: Love and Honor in Las Vegas"を原作としており,脚本も共同執筆している.実在したカジノ支配人フランク・“レフティ”・ロゼンタール(Frank Rosenthal),ギャングのトニー・スピロトロ(Anthony John Spilotro)が,サムとニッキーのモデルであることは広く知られているが,ロゼンタールが実際にテレビ番組の司会者を務めていたこと,爆破未遂で命を狙われたエピソードが映画でもリアルに再現されている.

 ロゼンタールの車が爆破された際,奇跡的に命を取りとめた理由がキャデラックの車底に耐爆プレートがあったというのもまた,現実の出来事に基づく.俳優陣の演技は圧巻であり,とりわけシャロン・ストーン(Sharon Stone)の演じるジンジャーは,狂気と悲哀の境界を絶妙に行き来した.ストーンは当初,監督と意見が対立して一度降板したが,再び話し合いの末に復帰したという.ジンジャーは,自立と崩壊を繰り返す複雑な存在として仕上がった.映画に描かれた監視社会としてのカジノは,現代におけるビッグデータ時代の予兆としても読み解くことができる.

 ホールのあらゆる角度にカメラが仕掛けられ,客の動向が秒単位で分析される仕組みは,今日のAI監視社会に先んじた予見的描写である.もう一つの妙味は,終盤で描かれる旧体制の終焉である.マフィアが影で支配していたカジノ産業は,巨大資本にとって代わられ,かつての裏社会の栄光は潰えゆく.スコセッシ自身が持つノスタルジア――暴力に彩られた"古き良きアメリカ"への郷愁――それに対する冷やかな批判の入り混じった視線を反映している.腐敗した夢と暴力的な管理社会,そして愛という名の取引がもたらす悲劇を,3時間にわたり執拗に描き切った力作である.暴力の美学,さらに資本と権力の欲望装置がいかにして人間を損耗させていくかを問う,冷酷な伝承である.

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原題: CASINO

監督: マーティン・スコセッシ

179分/アメリカ/1995年

© 1995 Universal Studios & Syalis Droits Audiovisuels