■「インターステラー」クリストファー・ノーラン

インターステラー [Blu-ray]

 環境の変化,食糧難などで,人類の存在が危うくなった近未来.元テスト・パイロットでエンジニアのクーパーは,ブランド教授らのプロジェクトにより,人類が移住できる環境を探しに宇宙に旅立つ.地球ではクーパーの幼い娘マーフ,多感な年齢の息子トムらが,クーパーの帰りを待っていた.ブランド教授の娘・アメリアらと地球をたったクーパーは,ワームホールを利用して宇宙空間をワープし,やがて水が存在する惑星にたどり着くが….

 論物理学者キップ・ソーン(Kip Stephen Thorne)をコンサルタント兼製作総指揮に迎え,人類の未来あるいは潜在可能性を問うイノベーションの存否に,クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)は果敢に挑んだように思える.移住可能な惑星を求めてワームホールを通過し,別の銀河系へと有人惑星間航行“インターステラー”しなければ,滅びゆく人類の運命を好転させることはできない.劇中で「ラザロ計画」と名付けられた人類宇宙移民計画の実現可能性を探査するため,元テスト・パイロットでエンジニアのクーパーは,インターステラーに臨む.三次元における時間的不可逆性,重力波,ブラックホール特異点,四次元立方体――理論物理学の知見を参考にしたさまざまな概念が,既存のSF映画の生ぬるさとは別次元の映画的完成度をもたらしている.一方で,想像の余地も存分に残して,観る者の好奇心を巧みに刺激もする.

 燃料と酸素の大半を失ったエンデュアランス号の出力エネルギーを得るため,クーパーは犠牲となることを覚悟に,ガルガンチュア(ブラックホール)に突入していく.そこで彼を導いたのは,5次元生命体と考えられる未知の存在だった.遠い未来の人類が,人類を破滅から救う起点となった出来事と人物(クーパー)を手助けする意図で,現時点の彼を援けたと解釈できるが,映画の驚くべき白眉は,その先に設けられていた.本作では,3次元からなる物理空間と,1次元時間からなる4次元時空を超える5次元空間を仮想している.クーパーを救った5次元生命体は,下位次元を行き来できる存在とされているようだが,これは,リサ・ランドール(Lisa Randall)の5次元空間仮説にもとづいている.

 クーパーが導かれたのは,4次元の超立方体“テサラクト”.娘のマーフが少女時代,「幽霊がいる」と怖がっていた部屋の本棚を3次元座標として,4次元の座標に彼は置かれている.テサラクトでは時間軸が歪み,物質や光も次元を越えることができないと考えられる.そこで,クーパーは次元を超越する「重力波」を使って,マーフに二進法の信号を送ることを試みる.人類を救うためのインターステラーに旅立った自分だが,その別れを泣いて拒んだマーフへの思いが,悔恨とともに迸る.この描写は圧巻だ.思索を巡らせるSFとして本作は構想され,ノーランもそれを認めている.父と別れて長じてから科学者となったマーフが,重力の秘密を解明した瞬間に叫ぶのは「ユリイカ!」.水の浮力に関する「アルキメデスの原理」を発見したアルキメデス(Archimedes)の興奮の雄叫びである.

 ソーンやランドールの学問的貢献につながる科学への信頼,畏敬をここに見出すことができる.しかし,その科学力をエビデンスとした人間が,究極的には拠りどころとするものが,肉親の情に帰結する.これが宇宙物理学の最先端を取り込み,斬新かつ稀有な映像――視覚効果はダブル・ネガティブが手掛けている――をわが物とする本作のひとつの着地点である.ノーランは,このことを製作初期から自覚して製作チームを率いたはずだ.2013年後半よりカナダのアルバータ州,アイスランド,ロサンゼルスで極秘裏に撮影は行われたが,フィルム名は長く伏せられていた."Flora's Letter―フローラの手紙―"というコードネームで呼ばれてきたのである.フローラとは,ノーランの愛娘の名前である.

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原題: INTERSTELLAR

監督: クリストファー・ノーラン

169分/アメリカ/2014年

© 2014 Warner Bros. Entertainment, Inc.and Paramount Pictures.