| ランドロック・パシフィック銀行に勤めるコンピューター・セキュリティの専門家,ジャック・スタンフィールド.家族とともに幸せな人生を送る彼に,人生最大の危機が迫ろうとしていた.ジャックに目をつけた強盗グループが彼の家族を人質に取り,1億ドルを銀行から盗み出すよう指示してきたのだ.犯人グループの徹底した監視体制の下,ジャックは自らが構築した鉄壁のセキュリティ・システムに挑むことになる…. |
鉄壁のセキュリティを突破する知的サスペンスを期待すると,早々に失望を招く作品である.映画の中でITセキュリティは核心的に描かれることなく,物語の緊張感はもっぱらハリソン・フォード(Harrison Ford)の肉体的な奮闘に依存している.観客が目にするのはIT専門家というより,従来通り「殴って走って解決する男」フォードの姿に他ならない.業界最高水準と謳われるシステムが単純なワームに脆弱であったり,犯人たちがセキュリティ知識を持たないまま作戦を遂行していたりと,筋立ての説得力は著しく欠けている.
観客が本来期待すべき知恵と技術のせめぎ合いは,不自然な抜け穴と力技の応酬に置き換わり,作品はサイバー・スリラーというより凡庸な人質アクションの範疇に収まってしまう.それでも本作が一時的に注目を集めたのは偶然の符合による.全米公開直前にバンク・オブ・アメリカで深刻なセキュリティホールが発覚し,オンラインバンキングの脆弱性が社会問題化していた.現実の事件が後押ししたことで,本作は時代性のある問題提起として受け止められたが,実際にはテクノロジーの描写に説得力を欠き,現実のほうがよほどスリリングであったという皮肉を露呈した.
フォードの存在感は,本作の最大の武器であり同時に限界でもある.60代に差しかかったが全力疾走し,殴り合い,窓から飛び降りる姿には敬服する.しかし,「逃亡者」(1993),「エアフォース・ワン」(1997)で完成された知的職業人でありながら最終的には肉弾戦に訴える男の反復にすぎない.ファンにとって安心感をもたらす「定番料理」ではあるが,同世代の俳優――アクション俳優のイメージを払拭することに成功したピアース・ブロスナン(Pierce Brendan Brosnan),デニス・クエイド(Dennis William Quaid)と比較すれば,フォードの硬直した演技パターンは際立ってしまう.
ポール・ベタニー(Paul Bettany)は,格闘シーンの撮影中,もっと強く殴ってほしいとフォードが依頼したと主張した.ベタニーは言葉通りにフォードを力一杯殴り,フォードは「もういい!」と返したという.また,銀行内部シーンは実際の銀行ではなくカナダ・バンクーバーのオフィスビルを改装して撮影されており,現場感覚は意外に乏しい.本作におけるリアリティは,技術的精緻さではなく,俳優の肉体の消耗によって辛うじて保証されているのである.
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原題: FIREWALL
監督: リチャード・ロンクレイン
106分/アメリカ/2006年
© 2005 Warner Bros. Entertainment Inc.
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