| ニューヨークのドイツ系移民の貧困家庭に生まれたゲーリッグ.彼は少年の頃からメジャー・リーガーを志していたが,機械技師にさせたい母の願いからコロンビア大学へ進む.だが,学内では野球に励み,彼の類い希な素質を認めた記者を通じてヤンキースと契約を結ぶことに.やがて,メジャーにデビューしたゲーリッグはたちまち人気スターとなり,シカゴで出会ったエレノアと結婚する.そしてなおも活躍し,二千回以上の連続出場を果たすが,その頃から,ある難病がゲーリッグの体を確実に蝕み始めていた…. |
史上最高の一塁手と称されるルー・ゲーリッグは,1939年7月4日の引退スピーチで国民的英雄としての地位を不動のものにし,そのわずか2年後に映画化が決定した.主演のゲイリー・クーパー(Gary Cooper)は,野球経験がほとんどなかったため打撃フォームの習得に苦労したという.だが,ぎこちなさが逆に不器用だが誠実というゲーリッグ像に重なり,観客に親近感を与えた.クーパーがあえて左打者であるゲーリッグに合わせて左打ちを練習し,反転撮影を併用して映像化した.
テレサ・ライト(Teresa Wright)が身につけたブレスレットが実際にゲーリッグ本人から贈られたものであったことなど,細部のリアリティが映画全体の感情的説得力を高めている.ベーブ・ルース(Babe Ruth)をはじめとする実際のヤンキース選手が本人役で出演している.ルースは当時すでに病魔に侵されており,スクリーンでの姿は晩年の肖像として貴重である.撮影後6年を待たずしてルースは世を去るが,本作におけるゲーリッグとの共演は,アメリカ野球の黄金時代を回顧する歴史的瞬間である.
本作は,野球そのものの描写が意図的に抑制され,球場でのプレーは断片的に映されるにすぎない.むしろゲーリッグの母親やエレノアとの関係,凡庸だが誠実な男が英雄に変貌していく過程に光が当てられる.製作側の明確な戦略は,野球ファンのみならず女性観客を含む幅広い層の共感を狙い,ゴールドウィン作品史上最高の収益を挙げた.ゲーリッグの闘病したALS(筋萎縮性側索硬化症)は,本作の公開を契機に「ルー・ゲーリッグ病」として広く知られるようになった.
野球ファンの記憶にまだ鮮明な人物をスクリーンに定着させた点で,本作は戦中アメリカにとって希望の物語としての役割を帯びた.「私は世界で最も幸せな男です」という名スピーチは,アメリカン・フィルム・インスティチュートが選出した「映画の名セリフベスト100」で38位に位置づけられた.スポーツ映画としては異例の評価である一方,公開年(1942年)はアメリカが真珠湾攻撃を受けて参戦した翌年であった.ゲーリッグの忍耐と誠実さは戦時プロパガンダ的な美徳となってアメリカ国民を歓喜させたのである.
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原題: THE PRIDE OF THE YANKEES
監督: サム・ウッド
127分/アメリカ/1942年
© 1942 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.
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