▼『誰も語らなかった首都腐敗史』森田実,斎藤貴男

誰も語らなかった 首都腐敗史

 豊洲市場の移転問題,東京五輪の費用肥大化,噴出する難題に連日熱狂するメディア……劇場型都政が幻惑する伏魔殿・東京の巨大な闇に辛口の政治評論家・森田実と「反骨のジャーナリスト」斎藤貴男が舌鋒鋭く切り込む,本邦初の「都政腐敗史」対談.すべての腐敗が一目でわかる「都政腐敗史年表」付き――.

 島幸男から石原慎太郎,猪瀬直樹,舛添要一,小池百合子に至る歴代知事の系譜を,著者らは都政の連鎖腐敗史と呼ぶ.青島によって「タレント知事」という概念が都政に導入され,石原はそれを「権力の芸術」へと昇華させた.その後の二代――猪瀬・舛添――は,実務よりも自己演出の維持に腐心し,結果として小池の「劇場型政治」が完成する舞台を整えた.

 本書の対談は,東京都庁という巨大官僚機構が中央政府の出城として機能している実態に切り込み,地方自治の理念が名ばかりの虚構であることを論じる.小池が掲げた「都政の見える化」というスローガンも,実際には不透明な権力構造を覆い隠す演出装置に過ぎなかったという指摘は鋭い.豊洲市場の移転問題や東京五輪の費用肥大化は,もはや一行政の失策ではない.そこに潜む構造的欠陥,すなわち責任の所在が常に霧散する組織的無責任の体質である.

 丸山眞男がかつて警鐘を鳴らした「無責任の体系」の21世紀的再演である.対談の核心は,メディアが都政をいかに虚構化してきたかという問題にある.かつて石原都政が推進した「ディーゼル車NO作戦」は環境対策として賞賛されたが,排ガス測定機器の調達を都庁が外資系企業に依存していた.環境政策の名の下に,都政と外資の利害が密接に結びついていた事実はもう忘れられている.新聞やテレビは一貫して都政を娯楽化し,政策よりも人物劇に焦点を当て続けてきた.

 ローマ帝国の「パンとサーカス」に通じる大衆操作とみるならば,小池劇場の本質もまた,観客=都民を政治的傍観者へと変貌させる点にあるといえるだろうか.巻末「都政腐敗史年表」に列挙された出来事の一つひとつは,メディアの沈黙,都民の無関心,政治家による演出の積み重ねによって覆い隠されてきた.首都の腐敗──痛烈な比喩による批判だが,日本社会全体に漂う「責任の喪失」という臭気そのものを意味している.

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原題: 誰も語らなかった首都腐敗史

著者: 森田実,斎藤貴男

ISBN: 4880863521

© 2017 成甲書房