| 1972年1月30日,日曜日.北アイルランド,デリー.これまで長年に渡って様々な差別や迫害に苦しめられてきたカトリック系住民はこの日,差別撤廃を求めてデモ行進を行なうことに.“平和的な行進”にもかかわらず,政府は多数の軍隊を投入,過剰な警備を行なう.やがて若いデモ参加者の一部には興奮を抑えられない者も現われ,主催者のコントロールが及ばなくなっていく…. |
雇用・住宅の保障,選挙の民主化など全般的に「差別」撤廃を訴える平和的デモ行進が,一瞬にして惨事に変わる.それを捉えるショットは,映画の文法的には「シネマ・ヴェリテ」方式.すなわち大幅にブレ続けるハンディカメラの映像,自然光での撮影は,真実の描写を意図とする作風の典型である.北アイルランドのカトリック系レパブリカン,プロテスタント系ロイヤリストの対立は,政治的要請を体制側に呑ませ,利益を確保するために,民間人を犠牲にすることも厭わない勢力を生んだ.
アイルランド以外では,中近東の民族主義者,中南米そして西側諸国における左翼革命に尖鋭化した運動グループである.イギリス社会問題研究所(SIRC)の報告によると,イングランドでは社会階級,スコットランドや北アイルランドでは宗教間対立,イタリアでは地域間摩擦が指摘できるという.だが北アイルランド紛争史上最悪の悲劇,1972年1月30日「血の日曜日」は,民間人の殺害を是とするテロ・グループの暴挙と鎮圧の結果ではなかった.公民権を訴える非武装のデモ参加者が,過剰警護のイギリス兵士に狙撃され,13名が死亡,14名が負傷(うち1名がその後死亡)という悲劇を辿った.
事件を裁いた英国高等法院王座部の首席裁判官は,鎮圧にあたったイギリス軍の正当性を認め,丸腰の住民を射殺した兵士の誰も刑罰を受けることはなかった.むしろ犠牲者には「爆弾所持」の汚名が被せられ,その不公正を断罪するために,遺族が支援ネットワーク"Bloody Sunday Trust"を立ち上げている.政治事件を扱う以上,どのような映画でもプロパガンダの様相を呈する.本作でも,権利要求デモで士気を鼓舞する応援歌《We shall overcome》――賛美歌第二編164番を編曲,変形させた替え歌――を,行進中の群集は歌う.
エンドロールは,U2の《Sunday Bloody Sunday》.ライブでは「俺たちはいつまでこの歌を歌わなければならないのか」と絶叫して披露することが慣例となっている.「血の日曜日」以後,北アイルランド議会は解散,イギリスの北アイルランド直接統治が開始されるが,1994年9月に小休止を得るまで,IRAの過激活動は続くことになる.駐留英軍や北アイルランド警察へのゲリラ攻撃,ダブリンのイギリス大使館焼き打ちなど,2000年代初頭までにテロ犠牲者は3,000人を数えた.記録映像的に,遺恨を顧みるべき作品である.
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原題: BLOODY SUNDAY
監督: ポール・グリーングラス
110分/イギリス=アイルランド/2002年
© 2002 Paramount Pictures Classics
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