■「マーシャル・ロー」エドワード・ズウィック

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 ブルックリンでテロリストによる爆破事件が勃発.テロ対策本部長に就任したFBIのハバード捜査官が事件現場へ行くと,そこにはなぜか管轄外のCIA諜報員エリースが捜査に乗り出していた.エスカレートするテロに街では一触即発の緊張が高まり,ついに戒厳令(=マーシャル・ロー)が発令された….

 メリカが「テロとの戦い」に突入する数年前に制作されたにもかかわらず,9.11以後のアメリカ社会を予見したかのような内容である.原題"The Siege"は「包囲」を意味し,フランス語"État de siège(合囲状態)"──戒厳令発動の前提となる国家的緊急事態──を想起させる語である.邦題は直訳すれば「戒厳令」.その響きの重さを避けるため,あえて英語表記が採用された.「マーシャル・ロー」は原題決定前の仮題であったが,結果的に包囲と戒厳という2つの概念を重ね合わせた選択となった.

 物語は,ニューヨークを舞台に連続する大規模テロによって,自由と安全の均衡が極限まで崩壊していく過程を描く.戒厳令が発令され,街は完全な軍事支配下に置かれると,アメリカが自ら誇る自由の国という理念が,テロ対策の名のもとにいかに容易く封じ込められるか──本作はその危うさを冷徹に可視化している.印象的なのは,CIAと連邦軍が国内で活動し,市民を拘束・尋問する描写であろう.

 アメリカ憲法上,CIAの任務は国外に限定され,国内の治安維持はFBIの管轄である.だが映画では,その線引きがテロの脅威の前に崩壊していく.まさに9.11後の愛国者法によって現実化した事態であり,本作はアメリカが実際に踏み入れることになる監視国家への入り口を,3年前に寓話として提示していたのである.エドワード・ズウィック(Edward Zwick)とデンゼル・ワシントン(Denzel Washington)の組み合わせは,「グローリー」(1989),「戦火の勇気」(1996)に続く3作目にあたる.

 ズウィックは正義と倫理のせめぎあいを軸に,娯楽映画の形式を通じて国家権力や個人の責任といった道徳的課題を描き続ける知的アクションの旗手とされていた.劇中ではアラブ系アメリカ人の強制収容が描かれたため,公開当時,一部のイスラム系団体から強い抗議が寄せられた.その描写こそが,2001年以降のアメリカ社会が現実に経験する「恐怖による分断」の予兆であった.

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原題: THE SIEGE

監督: エドワード・ズウィック

118分/アメリカ/1998年

© 1998 20th Century Fox