■「縞模様のパジャマの少年」マーク・ハーマン

縞模様のパジャマの少年 [Blu-ray]

 第二次世界大戦下のドイツで,ナチス将校の父の昇進により一家で殺風景な田舎に引っ越してきた8歳のブルーノ.退屈なあまり,母から立ち入りを禁じられていた裏庭から奥の森へと探検に出たブルーノは,フェンスの向こう側に住む同い年のシュムールと出会う.彼との友情が,やがて自分の運命を大きく変えてしまうとは知らずに….

 賞前に余計な知識をもたない方が,この作品は確実に刺さる.マーク・ハーマン(Mark Herman)は,「ブラス!」(1996),「リトル・ヴォイス」(1998)など社会的な題材を軽妙なユーモアで包む手腕を発揮してきた.BBCとミラマックス=ディズニーという大衆的な配給網のもとで,これほど残酷な作品を作り上げたことは,興味深い.原作はアイルランド人作家ジョン・ボイン(John Boyne)による同名小説で,全世界で1,000万部以上を売り上げた.原稿をわずか2日半で書き上げたという逸話が残されているが,その異様な集中力が作品の純粋すぎる悲劇性と響き合っている.

 観客が最初に違和感を覚えるのは,「パジャマ」という言葉の柔らかさだろう.それはアウシュヴィッツの収容服である.だが,8歳のブルーノの視点では縞模様の服にすぎず,世界の残酷な秩序は「見えない」ままである.この見えなさこそが,本作の核心である.ハーマンは,現実とファンタジーを明確に分離させて描く.収容所のリアリティを追求するかわりに,童話的なトーンを選び,観客をブルーノの無知な視界に閉じ込める.煙突から上がる煙,人形を積み重ねた暗喩的カット――観る者が知識として知るホロコーストを,ここでは「知らない子供のまなざし」を通して再体験させられるのだ.

 ブルーノの家庭の内部は,当時のドイツ社会の縮図として緻密に構成されている.ナチスに協力する祖父,体制に反発する祖母,葛藤を抱えながらも沈黙を選ぶ母親,そして教育によってナショナリズムに染まる姉.誰もが「自分なりの正しさ」に従って行動しているが,誰も真実を見通せない.「群盲象を撫でる」という故事のように,時代を生きるとは,全体像を失ったまま部分を信じることにほかならないからだ.ラストシーンの圧倒的な衝撃――少年の「遊び」が,取り返しのつかない現実に転化する瞬間――は,観客に対しても倫理的な責任を問う.

 ブルーノの純粋さは,知ることを拒んだ社会そのものの象徴でもある.観客は2人の無垢な少年に感情移入するほど,自分の無知に胸を突かれる.この構造が本作を知の怠惰に対する警鐘へと昇華させている.また本作は,言語的リアリズムを捨てることで,物語を普遍化した.ドイツ語ではなく英語で語られるナチスは,「他人の過去」ではなく「いま自分たちの社会にも起こりうる暴力」の比喩として響く.BBC制作でありながらディズニーが配給を担ったことも,当時論争を呼んだ.あの夢と希望の象徴たるディズニーが,無垢の悲劇を包み隠さず世に出したのだ.

縞模様のパジャマの少年 [Blu-ray]

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原題: THE BOY IN THE STRIPED PYJAMAS

監督: マーク・ハーマン

95分/イギリス=アメリカ/2008年

© 2008 Miramax