| ますます高度になり複雑化する現代自然科学の最先端の知識を紹介し,それを自由奔放に駆使しながら,そうした自然科学の各分野がどう組み合わされ,どんな可能性が生まれつつあるかをユーモラスにわかりやすく浮彫りにする.第一級の生化学者であり,SF界の第一人者である著者にしてはじめて可能なエッセイ――. |
科学という知的営為の風景画,あるいは人類が自らの思考をどのように宇宙に向けて拡張してきたかを描く知の誌である.原題の「高さ」とは,おそらく精神的な高度の比喩であり,アイザック・アシモフ(Isaac Asimov)は科学というものの眺めを提示する.本書に収められた17篇の随筆は"The Magazine of Fantasy and Science Fiction"に1959年から1962年にかけて掲載されたものを集成したもので,生物学・化学・物理学・天文学の4部構成からなる.
アシモフの科学観は,かつて「自然哲学」と呼ばれた学問が,観察・実験・仮説検証という手続きを通じて哲学から分化した知的伝統を受け継いでいた.アイザック・ニュートン(Isaac Newton)が「真理の大海」の岸辺で貝殻を拾う子供に喩えたように,アシモフもまた,無限の未知を前にした人間の小ささと,それにもかかわらず探究をやめない意志の尊さを描き出す.科学を詩的に語ることができる希有な書き手であり,科学者でありながら,言葉の音楽性を失わなかった.
今日では,科学という果樹園は,地球をとり巻く巨大な怪物となり,そこには一枚の地図もなく,誰も道を知らない.それどころか,世界中の有能な科学者が,よってたかって手探りしているのである
生物学の章で生命の精妙な多様性を讃え,化学の章で原子の対称性に美を見いだし,物理学の章で時間の分割を「究極の瞬間」と呼ぶ彼の語りは,詩人の息遣いに近い.アシモフの科学エッセイは,専門家だけでなく一般読者にも開かれていた.彼にとって科学とは,人間が世界を理解するための共通言語であり,特権的な知ではなかったからである.
文体は常にユーモラスで,親しみやすく,時に皮肉を帯びている.難解な理論すら,まるで友人に話しかけるように説明する――アシモフ流の知的民主主義である.本書は,人間の知性がどこまで宇宙を理解しうるか,その限界を見据えながらも,その過程を愉しむ.読者は,アシモフの導きによって,科学の森を歩く旅人となる.未知は恐るべきものではなく,驚異として祝福される――その感覚を思い出させてくれる点において,本書は今なお新しい.
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Title: VIEW FROM A HEIGHT
Author: Isaac Asimov
ISBN: 4150500215
© 1978 早川書房
