| 2019年,酸性雨が降りしきるロサンゼルス.強靭な肉体と高い知能を併せ持ち,外見からは人間と見分けが付かないアンドロイド=「レプリカント」が5体,人間を殺して逃亡.「解体」処分が決定したこの5体の処刑のため,警察組織に所属するレプリカント専門の賞金稼ぎ=「ブレードランナー」であるデッカードが,単独追跡を開始するが…. |
リドリー・スコット(Ridley Scott)が本映像に注いだ美学は,当時のハリウッドでは異端であった.常に酸性雨が降り,ネオンが滲むロサンゼルス2019年の街並み――アジア的混沌とサイバーパンク的退廃が混交した都市空間――は,のちの映画・アニメ・建築に連鎖的な影響を及ぼした.「攻殻機動隊」(1995),「AKIRA」(1988)の都市像には,明らかに本作の影が落ちている.
アートディレクターのシド・ミード(Syd Mead)は,架空の車両「スピナー」や建築群をリアルに設計した.これは未来をデザインする映画だったと述懐した一方で,製作の舞台裏は混沌としていた.スコットは「エイリアン」(1979)の成功を経てイギリスからハリウッド進出を果たしたばかりであり,アメリカの撮影現場で文化摩擦に直面した.イギリス人スタッフとアメリカ人スタッフの確執,主演のハリソン・フォード(Harrison Ford)との軋轢,スタジオの商業的圧力で現場は常に緊張を孕んでいた.
初公開版のラストシーンには,「シャイニング」(1980)の未使用カットが流用されている.スタジオ側が暗すぎる終わり方を避けたいとして,明るい森林の映像を挿入させた.スコットは強く反対したが,当時の監督権限では拒否できなかった.こうした経緯は,後年「ファイナル・カット」(2007)を自ら監修する契機となった.スコットはこの最終版について「これが本当のブレードランナーであり,永遠の完成形」と宣言した.ヴァンゲリス(Vangelis)のシンセサイザー音楽は,冷たい未来世界に有機的な哀感をもたらし,レプリカントの「思い出の数々も時とともに消える.雨の中の涙のように」という名台詞を詩的に支えている.
興行的には失敗に終わったものの,その後の再評価は急速であった.公開当時は暗すぎ,哲学的すぎると酷評されたが,25年後には「2001年宇宙の旅」(1968)と並び称されるまでに至る.必ずしも比較対象になり得ないわけだが,批評史的に見れば,両作ともに初期の拒絶と後年の神格化という同一軌道を辿ってきたことは間違いない.確認されているだけでも7種類のバージョンが存在し,その都度編集方針やナレーション,クライマックス描写が異なるという事実が,映画として完結していない――変化し続けるテクストであり,観客の解釈を更新し続けている.
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原題: BLADE RUNNER
監督: リドリー・スコット
117分/アメリカ=香港/1982年
© 1982 LADD COMPANY, WARNER BROS
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