| 独裁,私物化,雇用破壊,ハラスメント,天下り……教職員に罵声を浴びせて退職強要.寮に住む学生45人を提訴.突然の総長解任.パワハラ捏造.全国の大学で起きた信じ難い事件を取材し,大学崩壊の背景を探る――. |
学問はかつて,国家や権力から独立した自由の砦であった.だが2004年の国立大学法人化以降,その理念は瓦解し続けている.法人化は表向き,効率化と自主性の向上を掲げた改革とされたが,実態は競争原理と成果主義のもとで大学を企業的経営論理に従属させる過程に他ならなかった.学問的探究の場は,経営指標に縛られた「管理の要塞」へと変質しつつある.本書が描くのは,大学制を規定する社会構造が人を追い詰めるメカニズムである.
北海道大学総長の突然の解任は,理由も示されぬまま遂行された権力の恣意であった.また大学自治の伝統を誇ってきた京都大学でさえ,経営統合の圧力とガバナンス改革の名のもとに,かつての自由な知の気風を失いつつある.私立大学の惨状はさらに深刻である.「教育より収入」と揶揄される経営偏重の実態は,大学が企業グループ化し,教員が使い捨ての契約労働者と化した縮図である.札幌国際大学の留学生入試混乱,追手門学院での退職強要研修は,もはや教育機関とは呼び難い組織運営の帰結を示している.
ここに見えるのは,大学が「知の共同体」から権力と恐怖による管理共同体へと変質していく過程である.大学腐敗の原型は,すでに1960年代の東大闘争期に予兆として現れていた.当時,学生たちは「大学の企業化」に抗議し,大学は誰のものかを問うた.半世紀を経た今,その問いへの答えは残酷なまでに具現化してきている.大学は,国家と企業の都合によって再編される「管理対象」と化したのだ.文科省官僚の天下りや現役出向制度は,明治以来続く「学官複合体」の延命装置であり,そこに知の独立は存在しない.
本書の価値は,知の崩壊が社会全体の衰退といかに連動しているかを描き出した点にある.学問の自由が損なわれるとき,社会は批判的思考の力を失う.大学の危機とは,民主主義の危機そのものであるはずだ.著者の筆致は告発的でありながら,学問への愛惜がある.かつて司馬遼太郎は「学者は時に国家よりも長生きする」と述べたが,大学がこのまま崩壊を続ければ,その言葉も空しい墓碑銘に過ぎなくなるだろう.
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原題: ルポ 大学崩壊
著者: 田中圭太郎
ISBN: 4480075399
© 2023 筑摩書房
