■「ハート・オブ・ウーマン」ナンシー・マイヤーズ

ハート・オブ・ウーマン [DVD]

 シカゴの広告代理店の敏腕ディレクター・ニックは男性向け商品広告で数々の成功をおさめ仕事にも女性に対しても自信満々な男の中の男だった.が,女性に受ける広告を作るためにライバル社から引き抜かれてきたキャリアウーマン・ダーシーの出現により立場を失ってしまう.女性の考えに疎いニックには女性に受ける広告をつくることが出来なかったのだ.仕事に自信を無くすニックだったが,ある事故がきっかけで突然不思議な力に目覚めた.なんと周りにいる全ての女性の心の声を聞けるようになったのだ….

 父長制批判というフェミニスト的主題を,極めて男性中心的な視点から展開している面白さがある.ニックの「女心が聞こえる」能力は,女性の内面世界への共感的アクセスに見えるが,実際には女性の思考を「盗聴」し,自己の利益のために利用する権力構造の延長線上にある.広告代理店ディレクター職にあるニックの母親がラスベガスのショーガールという設定も,戦後アメリカのエンターテインメント産業における女性の商品化という歴史的文脈に乗る.

 ヘレン・ハント(Helen Hunt)演じるダーシーは,能力ある女性幹部として描かれるが,物語が進むにつれて,ニックの成長のための触媒という従属的な役割に回収されていく.しかし,本作を男性中心主義として退けることもできない.娘アレックスとの関係性の再構築,職場の女性秘書エリンとのやり取りを通じて,ニックが学ぶのは女性の利用法ではなく,他者の尊厳を認識することであった.

 ナンシー・マイヤーズ(Nancy Jane Meyers)は,本作を含む一連の作品で洗練された都会的生活の美学を確立したが,そこには階級とジェンダーの問題が常に潜んでいる.家父長制の特権を享受してきた男性がその特権を認識し,不完全ながらも変容を試みる物語として,21世紀初頭の過渡期的状況を記録した文化的アーティファクトとしての価値を持つように見える.ジークムント・フロイト(Sigmund Freud)による「女性は何を望んでいるのか?」という問いへの言及も,精神分析の父の限界を指摘しつつ,結局は男性が女性を理解する構図を強化してしまう.

 メル・ギブソン(Mel Gibson)が女性用製品を試す場面で使用されたナイキのスポーツブラは,当時ナイキが女性市場開拓のために力を入れていた実在の製品ラインナップだった.90年代後半から2000年代初頭,企業マーケティングが女性消費者を本格的なターゲットとして再発見した時期であったことに鑑みれば,本作の広告業界という舞台設定は,経済的転換点を的確に捉えていた.

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原題: WHAT WOMEN WANT

監督: ナンシー・マイヤーズ

127分/アメリカ/2000年

© 2000 Paramount Pictures