■「スピード」ヤン・デ・ボン

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 ラッシュ・アワーのLA.乗車15名を乗せた市バスに時速80km以下に減速すると爆発する時限爆弾が仕掛けられた!ロス警察のSWAT隊員ジャックが人質救出のために立ちあがる….

 クション映画がまだ筋肉と機械とカメラの連携によって成立していた時代が懐かしい.ヤン・デ・ボン(Jan de Bont)は撮影監督として「ダイ・ハード」(1988),「ブラック・レイン」(1989)に携わり,アクションの動線を知る映像職人であった.その撮影技師が初めてメガホンを取った本作は,爆破や銃撃といった派手なギミックより「速度」を物語の主役に据えた.

 ロサンゼルスの高速バスに仕掛けられた爆弾が時速50マイルを下回ると爆発する設定は,脚本上の制約を逆手に取った演出装置である.ロサンゼルスを走り抜ける高速バスは,制御不能な「走る爆弾」と化す.主演のキアヌ・リーヴス(Keanu Reeves)は,当初アクション型ではなかった.「マイ・プライベート・アイダホ」(1991)などで繊細な青年像を演じていたリーヴスが,髪を短く刈り上げ,余計な台詞を削ぎ落とし,身体反応で感情を表す.この造形がなければ,「マトリックス」(1999)のネオも生まれなかっただろう.

 脚本を担当したグレアム・ヨスト(Graham Yost)の脚本は,ジェームズ・キャメロン(James Francis Cameron)が非公式にリライトしたと伝えられている.冒頭のエレベーター・シーン,バスが高速道路の切れ目を飛び越える場面の緊迫感は,キャメロンが好む物理法則ギリギリの現実味を想起させる.固定カメラを避け,ドリーやステディカムを駆使し,視点を「運動の内部」に置く撮影手法は,視覚と体感を同時に刺激する.それによって,観客は速度という抽象概念をスリルとして体感する.

 太陽光が白く反射するロサンゼルスの高速道路,バスの銀色,コンクリートの灰色が織りなすコントラストは,90年代アクションのビジュアル・コードを決定づけた.しかもCGをほぼ使わず,スタントの大半を実写で敢行している.撮影中にバスが橋を飛び越え,着地の衝撃でカメラが一瞬フレームから外れたが,事故的な瞬間がリアルだったため,そのまま採用されたという.フィジカルなリアリズムこそ,時代を超えて支持される理由となった.デジタル編集やグリーンバックが主流となった現在では,もはや再現不可能な運動への時代精神がある.

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原題: SPEED

監督: ヤン・デ・ボン

115分/アメリカ/1994年

© 1994 20th Century Fox