■「リンダとイリナ」ギヨーム・ブラック

リンダとイリナ(字幕版)

 2021年6月,フランス北部エナン・ボーモン.活発なイリナと友情に抵抗があるリンダは,進路相談や悩みを打ち明け合い親友に.しかし,リンダの家族がまた引っ越すことになり,2人の関係に変化が訪れる….

 春期という季節の儚さを,午後の陽光が校庭を撫でるように静かに照らし出す.北フランスの炭鉱町エナン=ボーモン.TikTokやスマートフォンが日常に溶け込んだ現代の高校生活の中で,リンダとイリーナという2人の少女が,友情と別離のはざまで揺れ動く姿が描かれる.リンダは母親の都合で再び転居を余儀なくされる.イリーナとの関係は,やがて痛みを伴う別れへと収束していく.その青春の一瞬,別れの刹那にこそ宿る痛みを指している.ギヨーム・ブラック(Guillaume Brac)は,演技素人の高校生を起用し,日常で交わされる素の言葉と間合いをそのまま映像に封じ込めている.

 脚本の骨格こそ存在したが,カメラの前でのやりとりはほとんどが即興であり,その結果,フィクションの枠を超えた真実の断片が立ち上がってくる.意図的にフィクションとドキュメンタリーの境界を曖昧にし,ありふれた日常の中に詩情を掬い取ろうとするその手つきは,エリック・ロメール(Eric Rohmer)を想起させるものであり,軽やかな会話の背後に倫理的な選択の問題を潜ませている.リンダは母の都合に従うほかないが,そこには親の期待と自分の意志とのあいだで引き裂かれる,思春期特有の緊張が漂う.

 「今回だけは別れがつらい」と呟くとき,その痛みは恋愛のそれとは異なり,他者に触れた自己の痕跡――心が成長する瞬間に生じる痛み――を意味している.撮影はコロナ禍明け直後の2021年夏に行われた.長く閉ざされた時間を経て,再び動き始めた世界の中で,少女たちの解放感と不安が微妙に交錯する.その空気をフィルムに焼きつけた本作は,パンデミック後の再出発の象徴でもあり,社会の再起動とともに,個人の心が静かに再び脈打ち始める瞬間を映し出しているのだ.

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原題: UN PINCEMENT AU COEUR

監督: ギヨーム・ブラック

38分/フランス/2023年

© 2023 Guillaume Brac / Bathysphere Productions / Le BAL - La Fabrique du Regard