| 根拠なき楽観論,改竄される情報,現地への偏見と無理解……1000名を超える政府・軍関係者へのインタビュー,ラムズフェルド国務長官の残した1万枚以上のメモなど膨大な資料が明らかにする米史上最長の戦争の失敗,そしてタリバン復権に至る真相.大きな反響を呼んだワシントン・ポストによる調査報道,待望の書籍化――. |
ワシントン・ポストが発掘した7,000頁超の内部文書を基に,三代の大統領と軍上層部による組織的欺瞞を暴いた調査報道の記録.米国のベトナム戦争への政治的・軍事的関与を詳細に記録した国防省の極秘報告書『ペンタゴン・ペーパーズ』の現代版だが,内実はより暗く,より徒労に満ちている.「テロとの戦い」として始まった戦争が,いつしか敗北を認めないための戦争へと変質していたことを,一次資料が証明しているからだ.2001年の開戦当初,アフガン侵攻には広範な支持が集まった.アルカイダの壊滅と9・11の再発防止という目的は明快であったが,その後の展開は巨大な政治的迷宮と化す.
イラク侵攻に傾注したブッシュ政権は,アフガニスタンを事実上放置,部族社会の複雑さを理解しないまま戦略を迷走させた.国防長官ドナルド・ラムズフェルド(Donald Henry Rumsfel)が「敵が誰なのか分からない」と述懐し,後任のロバート・ゲーツ(Robert Michael Gates)が「アルカイダについて何も知らなかった」と自嘲する様は,もはやブラック・コメディである.極めつけは,大統領自身が自軍のアフガン司令官の名すら知らなかったという.戦争が"管理不能な政治ショー"であったというほかない皮肉である.本書の核心は,誰が嘘をついたかではない.なぜ皆が嘘を必要としたのかを問う点にある.オバマ政権,トランプ政権も,撤退の政治的代償を恐れ,事態は進展していると言い続けた.
報告書や会見で繰り返される「成功」の言葉は,現場の兵士たちにとっては空虚な呪文に過ぎなかった.アフガン政府の汚職と麻薬依存は制御不能に陥り,国家建設(nation-building)の名目で投じられた数兆ドルは,砂漠の砂のように消えた.構成面では,政府高官・軍人・援助関係者ら1,000名以上へのインタビューを実名で再構成した点が,従来の戦史を超えた迫真性を与えている.その筆致は乾いており,情緒を排して事実を積み上げる.ゆえに,国家が「真実」を制度的に歪める構造的恐怖が,鮮明に浮かび上がる.米軍内部でPowerPoint文化が蔓延し,作戦報告が事実上プレゼン資料の美観競争と化していたという証言は読む方も耳が痛い.
上層部が成功の物語を求めるあまり,現場は虚偽のグラフと曖昧な用語――進展の指標(metrics of progress)――で戦況を演出した.戦場が官僚的修辞に占拠され,プレゼンテーションが現実を裏切り続けたのである.本書が明らかにしたのは,資本主義であり民主主義である軍事国家が失敗を隠蔽するシステムを自ら構築したという不気味な構造だ.情報の隠蔽は,国民の安心幻想を維持するための政治装置と化していた.21世紀の帝国の病理に他ならず,2021年にタリバンが電光石火で首都カブールを奪還した光景は,あまりに苦々しい帰結であった.
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Title: THE AFGHANISTAN PAPERS - A SECRET HISTORY OF THE WAR
Author: Craig Whitlock
ISBN: 9784000615433
© 2022 岩波書店
