| 2001年9月11日.UA93便は高度35000フィートでハイジャックされた.その瞬間から墜落まで,残された時間はわずか34分.初めて明かされる,死を覚悟した40人の真実――. |
2001年9月11日,ワシントンD.C.へ向かう高度35,000フィートの機内で,4人のテロリストによりハイジャックされた93便は,ホワイトハウスを目標に突入する前にペンシルベニア州シャンクスヴィルに墜落したとされている.政府は,乗客たちが一致団結してテロリストに立ち向かった結果,国家中枢への攻撃を阻止したと発表し,彼らを英雄へと昇華させた.本書には,悲劇を記録しようとするまなざしが確かに存在する.しかし,本書を読み解く際には,出来事の「語られ方」「語られなかった部分」の両方に意識を向ける必要がある.というのも,93便の墜落をめぐっては,初期から不可解な点が幾つも積み重ねられてきたからである.
墜落現場では,機体の主要部分も,乗客の遺体も「衝撃により地下9メートルへ埋没した」とFBIが説明したが,46メートル超の機体と2基の6トン級のエンジンが,地中でほぼ消滅するという説明は,物理的に信じがたい.空中爆発を起こしたスペースシャトル「コロンビア」でさえ,多くの残骸が広範囲に回収されたという前例がある.テロ当日現場周辺にはF16戦闘機3機とF15戦闘機2機が飛行していたことを政府自身が認めており,ライターのデビッド・グリフィン(David Ray Griffin)が指摘したように,F16が93便を追跡していたという証言も残っている.こうした事実は,撃墜説を陰謀論として切り捨てるには慎重さが必要であることを示している.
むろん,9.11テロがアメリカの自作自演といった主張を支持する必要はない.しかし,乗客の一人が突撃の直前に発したとされる"Let’s Roll"という言葉は,のちにブッシュ政権がアフガニスタン侵攻のスローガンにそのまま採用した.一方で,墜落の目撃者について,本書には「たった一人だけが見た」とする記述もあれば,「墜落直前まで完全な姿を大勢が見ていた」とする記述が混在し,不統一が見られる.ブラックボックスについても,音声テープに「乗客の声が混入している」という報道がなされた.通常,コックピット・ボイスレコーダーは操縦室内の音声のみを拾うため,不自然さは残る.
以上の点からすると,本書は犠牲者への敬意とその最期の行動を記録した点で価値がある一方,事件の全貌を「真実の物語」として受け止めるには,読者側に一定の批判的態度が求められるといえる.とりわけ9.11事件の文脈は,国家とメディアが英雄神話を形成していく動態であり,語りの政治性が濃厚に宿っている.英雄として語られた人々の献身に敬意を払いつつも,事件をめぐる政治的文脈と情報の齟齬に目を閉じることができない作品である.だからこそ,本書を読む際には「信じる」でも「疑う」でもなく,事実の断片を丹念に照らし合わせながら,物語の継ぎ目にこそ真実が潜むという姿勢で臨むべきである.
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Title: AMONG THE HEROES - UNITED FLIGHT 93 & THE PASSENGERS & CREW WHO FOUGHT BACK
Author: Jere Longman
ISBN: 4334961584
© 2003 光文社
