| 2人の天才マジシャン,アンジャーとボーデンはライバルとしてしのぎを削りあう2人だったが,ある舞台でのマジック中,アンジャーが水槽からの脱出に失敗し,ボーデンの目の前で溺死する.翌日,ボーデンは殺人の罪で逮捕され,死刑を宣告される.ボーデンはそこに恐るべきトリックの存在を感じる.これはアンジャーが仕掛けた史上最大のイリュージョンではないのか…. |
映画が大衆娯楽の王座を確立する以前,ショービジネスの中心にあったのは奇抜なマジックであった.奇術には「これは本物」と信じ込ませる導入=プレッジ,状況を反転させる過程=ターン,驚愕と喝采を呼ぶ結末=プレステージ(偉業)が求められる.奇術の三段構え自体を映画の構造へと転写し,奇術師同士の宿命的な対決を描こうとする意欲作である.題材の選択が,編集と時間操作を得意とするクリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)の作家性と噛み合っている.19世紀末ロンドン.アンジャーの妻の死は,ボーデンの判断ミスによって引き起こされた悲劇であった.この一点が両者の人生を復讐と執念の軌道へと押し流す.
やがて二人は,それぞれ「グレート・ダントン」「プロフェッサー」として名声を得るが,名声は相手を出し抜くための策略によって肥大化していく.奇術師が互いのトリックを盗み合う構図は,演目の裏側に潜む暴力性と倫理の崩壊であろう.ノーランの十八番である時間の攪乱,リワインド的編集は本作でも健在である.ただしそれは,観客に再鑑賞の快楽を与えるというより,謎解きの完成を最優先する形式主義へと傾いている.鑑賞後,散乱したピースを拾い集めて再構成したいという欲求が,奇妙なほど喚起されないのはそのためである.
作中で繰り返される「種明かしをすれば観客は去ってしまう」という台詞が示すように,本作は「欺くこと」に価値を置きすぎており,努力や蓄積が感動へと転化する過程を十分に描かない.その結果,驚きは強烈であるが,感情の余韻は意外なほど淡泊である.19世紀のイギリスは,電気や科学がまだ魔術と地続きで理解されていた時代だった.「人間瞬間移動」「消える鳥籠」といった古典的マジックが,過剰な説明なしに成立する.実在の発明家ニコラ・テスラ(Nikola Tesla)を物語に組み込み,しかもそれをデヴィッド・ボウイ(David Bowi)に演じさせる大胆な配役がユニーク.
ちなみに,劇中の奇術監修はデヴィッド・カッパーフィールド(David Copperfield)が担当しており,舞台マジックの動作や所作が異様なほどリアルなのも,その職人性の賜物である.ヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman),クリスチャン・ベール(Christian Bale)は,ともに古典的な芝居の香りを漂わせ,芸に人生を喰い尽くされる執念はマジック以上にスリリングである.ラストで明かされる一世一代のトリックは,その大胆さゆえに賛否を呼ぶが,「19世紀の物語」というエクスキューズによって,奇妙な説得力を獲得している.「騙されること」を快楽として引き受ける観客にこそ開かれた,冷ややかで知的な一作である.
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原題: THE PRESTIGE
監督: クリストファー・ノーラン
130分/アメリカ/2006年
© 2006 Touchstone Pictures
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