▼『流星の絆』東野圭吾

流星の絆 (講談社文庫)

 何者かに両親を惨殺された三兄妹は,流れ星に仇討ちを誓う.14年後,互いのことだけを信じ,世間を敵視しながら生きる彼らの前に,犯人を突き止める最初で最後の機会が訪れる.三人で完璧に仕掛けたはずの復讐計画.その最大の誤算は,妹の恋心だった.涙があふれる衝撃の真相.著者会心の新たな代表作――.

 讐譚の外形をまといながら,本質は「失われた時間」の回復と倫理判断の困難さへの思索にある.過去の被害と現在の行動を交互に露呈させることで,読者の因果認識は逐次書き換えられる.人物造形は両親を殺害され復讐を誓う三兄妹の内的差異を明確に描き分けることでキャラクター性を確保している.長男の冷徹さは常に戦略的で,次男の楽天さは状況に推進力をもたらし,末妹の痛みと反撥が復讐行為の重心を揺さぶる.

 復讐は家族という血の連鎖のなかで意味を得る行為であるから,注視すべきは,三者が役割――策士・推進者・抵抗者――に簡約されず,相互作用者として捉えられる点だろうか.テーマ面では「真実の偽装」「奪うことと奪われたままであること」が反復され,洋食メニュー「ハヤシライス」,街景の描写は,家族の記憶を喚起する.厨房の作業や料理描写に想像力を巡らし,料理という日常が喪失と結び付くとき,読者は被害者家族の喪失感を感覚的に追体験するのである.

 全体の文脈に目を向けると,本作に描かれる生存戦術や復讐の論理は,著者の他作に見られる献身の論理やトリックと微妙に共鳴する.著者は異なる物語を通じて同じ倫理命題を多面的に提起しており,セルフオマージュ的な連続性はあっても新鮮さはない.叙述技法としては,犯人が極端に異常な人物でないからこそ,悪の成因が日常の亀裂に結びつけられ,人の弱さと愚かさに帰結する.ミステリの「誰がやったか」を超え,「なぜそうなったか」を示すが文学的踏み込みは浅い.おそらくメディアミックスを想定して書かれているため,全体的に陳腐な作品である.

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原題: 流星の絆

著者: 東野圭吾

ISBN: 9784062769204

© 2011 講談社