| これは恐らく,現存する最後といっていい土葬の村の記録である.村人は,なぜ今も「土葬」を選ぶのか?日本の伝統的な葬式である「土葬・野辺送り」が姿を消したのは,昭和の終わり頃とされている.入れ替わるように火葬が増え,現在,日本の火葬普及率は99.9%を超える.土葬は,日本の風土から完全に消滅してしまったのだろうか――. |
火葬率が99.9%に達した日本において,ほとんど消滅したと考えられてきた土葬文化は,なお局地的に生き延びている.土葬は古代の遺風として語られ,あるいは衛生観念や法規制によって過去に葬られた慣習と見なされてきた.著者は30年以上にわたる調査を通じて,奈良盆地東縁の山間部に,千年の時間を封じ込めたかのような土葬の文化圏が点在していることを突き止めている.この地域は,柳生新陰流を生んだ柳生の里を含む.
柳生地域では江戸期から明治期にかけて,寺院が檀家制度を強化する以前の埋葬慣行が長く継承されており,江戸後期にまで庶民の土饅頭墓が残っていた.仏教による火葬推奨が本格化した中世以降も,山間農村では土葬が揺るぎなかったのである.かつて,葬列が村外れの峠まで遺体を運び,そのまま静かに還っていく行為は,死者を村の世界から丁重に外へ送り届ける儀礼として重んじられていた.柳生の村々では昭和後期までこの行列が見られ,古老の証言によれば,若い者は恥ずかしがって先頭に立とうとせず,結局いつも同じ老人が棺の鼻を持つ役をやらされたという.
儀式は厳粛であると同時に,日々の人間関係や村の力学をそのまま映し出す.野焼き火葬,風葬の証言も,死の処理が一枚岩でなかったことを示す貴重な資料である.山岳信仰の影響が強い地域では,死体を聖域へ放置する風葬が明治期まで散発的に確認され,明治政府の衛生政策によって「野蛮」と断じられて禁止される過程が,柳田國男らの記述に残っている.著者はこの断絶を丁寧にたどることで,「日本の死」が近代化の過程でいかに均質化され,そして忘却されたかを述べている.
第四章で語られる怪談・奇譚の収録は,死を語り継ぐ文化の核心であろうか.土葬の村には,死者が夜道を歩く足音,野辺送りの帰路で振り返ってはならないといった禁忌が数多く残る.近代的な合理性からは荒唐無稽に見えるが,死者を畏れつつ敬うという共同体の心理的バランスを保つ役割を担っていた.柳生地域ではかつて,葬列の帰りに「必ず一度だけ道を間違える」という風習があった.死者が家路を辿れぬようにする"迷わせ"の儀礼であったとも考えられ,死者と生者の領域を慎重に区切るという古代的な感覚の名残なのだろう.
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原題: 土葬の村
著者: 高橋繁行
ISBN: 4065225442
© 2021 講談社
