■「道」フェデリコ・フェリーニ

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 野卑な旅芸人ザンパノに引き取られ,芸を学びながら旅を共にするジェルソミーナ.自分勝手な振る舞いに明け暮れるザンパノにジェルソミーナは苦労が絶えない.ある日,優しい綱渡り芸人と心を通わせるようになるのだが,その芸人はかつてザンパノと因縁のある男だった….

 回りの怪力芸人ザンパノと,寒村から口減らしのために売られた娘ジェルソミーナ.フェデリコ・フェリーニ(Federico Fellini)が凝視するのは,人が避けがたく踏みしめる道の因果である.粗野で暴力的なザンパノは,自らの弱さを潜在的に自覚しながらも,それを直視する術を持たない.力しか持たず,力に依存することでしか世界と関係を結べない彼にとって,他者とは支配か排除の対象でしかない.一方,ジェルソミーナは愚鈍に見えるほど無垢であり,打算という概念を持たない.

 老子の言う「大賢は大愚に似たり」の境地は,まさに純真な存在において体現されている.ジェルソミーナは理解しないが,感じている.計算しないが,受け入れている.彼女に決定的な言葉を与えるのが,綱渡り芸人「キ印」である.「この世のどんな小石にも意味がある」という言葉は,意味の根拠を理屈ではなく,感覚として差し出し,ジェルソミーナの生を支える唯一の“よすが”となる.ネオレアリスモの系譜に連なる本作は,最下層の漂泊と孤独を描きながらも抒情性を色濃く帯びている.

 ニーノ・ロータ(Nino Rota)のテーマ曲は,哀切でありながら甘美な旋律で忘れがたい.無償の愛を受け止める能力を欠いた男が,後年になって初めて触れることになる悔恨の予兆でもある.ザンパノは循環する隘路に閉じ込められた存在である.芸は一つ,肉体は老い,代替不可能な他者を失ってもなお,同じ道を歩き続けるしかない.比喩としての道は,彼にとって出口なき反復である.夜の浜辺でザンパノが嗚咽する場面は,アンソニー・クイン(Anthony Quinn)のキャリアにおいても屈指の没我的演技として知られる.

 フェリーニは説明を排し,音楽と表情だけで,懺悔にも似た一瞬の覚醒を描く.しかし,過失を悔いれば罪が祓われるという物語的因果は,本作には適用されない.慈愛の目覚めは,時機を逸すれば祝福ではなく呪いとなるからである.かけがえのない存在を正しく認識できる能力――誰もが持っているはずのものに見えながら,実際には失われやすく,取り戻すこともできない.フェリーニは本作において,人生には取り返しのつかない瞬間があり,そこを通過してしまった後に訪れる悔恨ほど,苛酷なものはないという真実を描き切ったのである.

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原題: LA STRADA

監督: フェデリコ・フェリーニ

115分/イタリア/1954年

© 1954 Ponti-De Laurentiis Cinematografica