■「スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち」エイプリル・ライト

スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち(字幕版)

 『トゥルーライズ』『ワイルド・スピード』『マトリックスリローデッド』をはじめとした映画史に残るアクションシーンを演じてきたスタントウーマンたちの証言で紡ぎだすドキュメンタリー.息を呑むような名シーンの数々を彼女たちはいかに作りあげてきたのか.彼女たちスタントウーマンたちの日々の鍛錬の様子やスタントウーマンの歴史を通して,ハリウッド映画の最前線で活躍するプロフェッショナル達の姿を映し出す….

 リウッド映画の陰で命がけのアクションを支えてきた女性スタントパフォーマーたちの歴史と現状を描くドキュメンタリー.男性中心の映画産業における女性スタント業界の制度的課題と尊厳の獲得の過程を,歴史的文脈のなかで提示している.1960年代から活躍するベテランと現代の若い世代の証言から見えてくるのは,数十年経過しても解決されない構造的な課題──報酬格差,認知度の低さ,安全管理の不備──である.

 初期のハリウッドにおいて男性がウィッグをかぶって女性役のスタントを務めていた事実は,女性スタントパフォーマーの「抹消」を意味していた.近年,映画芸術科学アカデミーは「スタントデザイン賞」の新設を発表するに至った.2028年の記念すべき第100回授賞式から導入される予定の同賞は,映画黎明期から映画製作に不可欠であるにもかかわらず長年正当な評価を受けてこなかったスタント業界の約30年にわたる地道な活動が実を結んだともいえ,スタント部門のアカデミー賞新設を巡る議論は,具体的な制度変更を生み出したのである.

 映画産業の民主化と平等化に向けた,実質的な一歩を踏んだ本作には,対応を要する限界も存在する.ドキュメンタリーとしての映像が,スタント技能の複雑性や高度さを視覚的に十分に伝達できていない側面は否定できない.加えて,本作が「女性スタントパフォーマー」に焦点を絞ることで議論の一貫性を保つ一方,スタント業界全体の総合的な分析──男性スタント,スタントコーディネーター,安全管理システム,労働条件の改善といった課題──を十分に展開していない点も指摘できる.

 産業としてのスタント業界の全体像を理解するには,さらに補完的な資料が必要である.産業全体のスコープという制約により,本作が示唆しながら十分に展開できなかった論点も確かに存在するが,これらの限界は,むしろ今後のスタント業界に関する多角的なドキュメンタリーや研究の必要性を示している.何より,スタントデザイン賞の新設という現実が示すのは,本作の問題提起がいかに先駆的であり,映画産業の構造的変化を促進する実践価値を持っていたかということなのである.

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原題: STUNTWOMEN - THE UNTOLD HOLLYWOOD STORY

監督: エイプリル・ライト

84分/アメリカ/2020年

© 2020 STUNTWOMEN THE DOCUMENTARY LLC.