■「ブギーナイツ」ポール・トーマス・アンダーソン

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 ダーク・ディグラーという芸名でデビューしたエディは,たちまちポルノ界の寵児に.しかし名声には代償が付きもの.気がつくとダークはセックスとドラッグとバイオレンスに足をすくわれ,スターダムから転げ落ちているところだった.果たして彼は手遅れになる前に,立ち直ることができるのか….

 ール・トーマス・アンダーソン(Paul Thomas Anderson)が27歳の若さで完成させたのは,1970年代から80年代にかけてのアダルト産業の勃興と衰退を,家族劇として描く長編.後年までこだわり続ける「疑似家族」「共同体」「居場所」という主題の原点となっている.スター誕生の物語は,本来なら希望と成功の寓話に向かうはずである.エディ・アダムスが"ディルク・ディグラー"へと名前を変え,巨大なペニスを武器にスターダムを駆け上がっていく過程は,70年代という享楽的な時代の狂騒,その終焉の暗い影.

 ドラッグと孤独,商品としての自己が寵児を食い尽くす構図は,アンダーソンが後年「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007)で描いた資本主義の怪物性のミニチュア版ともいえるだろうか.視覚的・音響的構築は,アルトマン的な群像劇の継承である.長回し,ワイドレンズ,多層的な会話の混在,70年代ディスコの圧倒的音圧――これらは派手な装飾だが,共同体が共有する幸福な錯覚を演出する.その錯覚が壊れる80年代への移行,コカイン中毒,ホームビデオの台頭による産業の地盤沈下が,まるで季節が変わるような滑らかさで導入される点は見事である.

 産業の栄枯盛衰において,少年が共同体を得て自己喪失する物語を二重写しにした作品である.登場人物たちは,倫理的に脆弱であるにもかかわらず,どこか気の毒で愛すべき存在として描かれている.アンダーソンが後年作で深めていく「共同体の代替形態」という主題が,この作品ですでに確立しているように見える.アンダーソンが脚本を書いたのは20代前半であり,原型は高校時代の自主映画"The Dirk Diggler Story"であった.

 バート・レイノルズ(Burt Reynolds)は撮影中,監督と衝突し続けたが,それにもかかわらず本作でゴールデングローブ賞を受賞した.後年レイノルズ本人は「映画そのものは観ていない」と語り,周囲を驚かせた.ジョン・C・ライリー(John C. Reilly),フィリップ・シーモア・ホフマン(Philip Seymour Hoffman)らは,この作品をきっかけに一気に注目度を上げ,90年代末のアメリカ映画の色調を決定づける存在になった.ディグラーが鏡の前で自らの"武器"を取り出す場面は,「レイジング・ブル」(1980)における鏡の独白シーンの完璧なパロディである.

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原題: BOOGIE NIGHTS

監督: ポール・トーマス・アンダーソン

155分/アメリカ/1997年

© 1997 New Line Cinema