■「英雄の条件」ウィリアム・フリードキン

英雄の条件 [Blu-ray]

 イエメンでアメリカ大使館包囲事件が起こる.救出に向かった海兵隊は,暴徒と化した民衆に向け銃撃を命令.多数の犠牲を出し,彼は軍事裁判にかけられる.事件の担当弁護士は,かつて彼に命を救われた戦友だった….

 軍の「交戦規定」という技術的な軍事概念を,政治闘争と道義的責任の問題へと拡張した作品.表面上は軍事法廷サスペンスだが,実質的には国家は兵士にどこまで責任を押し付け,どこまで真実を隠蔽するかという政治ドラマである.チルダース大佐の暴走をめぐる訴追,退役を目前にしたホッジズ大佐が旧友のために戦ううち,事件の証拠が意図的に消されていること,政治家たちが人命よりも外交カードを優先する構造が明らかになっていく.本作の凄みは,軍人賛歌や反戦映画とは距離を置き,軍人とは国家の便利な悪役に仕立てられうる冷酷な現実を描いた点にある.

 物語は2つの視点で進行する.前線での判断を迫られる兵士の実存的な責務,もう一つは,後方の政治家が後出しで最適化された倫理を振りかざす偽善である.こうした二重構造は1980年代以降のアメリカ映画が繰り返し扱ったテーマ――例えば「ア・フュー・グッドメン」(1992)――を踏襲しつつ,露骨に国家機構の腐敗を告発する.チルダース大佐は民間人を積極的に撃ったのか,撃たざるを得なかったのか――映画は彼を英雄にも悪魔にも仕立てず,軍事行動の判断が常に後知恵で裁かれる不公平さを強調する.事件の真相を映した監視ビデオは隠蔽され,外交問題への配慮を優先する政府の姿勢が露わになる.

 軍人は国家の「消耗品」として現実に扱われる.ウィリアム・フリードキン(William Friedkin)の職人的演出により,冒頭のイエメンでの銃撃戦と後半の軍法会議が高いテンションで接続され,戦場と法廷の対峙が強調される.戦場での一秒の判断が,法廷で数週間かけて分解されるという対比は,地味ながら政治ドラマの効果を挙げている.フリードキンにとって本作は,冷戦後のアメリカ政治が責任逃れの官僚機構となったことへの強い不満が前面に出た,稀有な後期作品である.製作陣は当初から「軍人の友情と裏切り」を物語の軸に据えるため,サミュエル・L・ジャクソン(Samuel L. Jackson)とトミー・リー・ジョーンズ(Tommy Lee Jones)の化学反応を重視していた.

 脚本よりキャスティングが先にした製作体制が採られたが,米国防総省は軍人がスケープゴートにされる描写を理由に全面協力を拒否した.結果として一部の軍施設はセットで再現され,リアリティを高めるために軍事顧問が多数起用されることとなった.戦争という極限状況における判断の是非を問うと見せかけ,実は国家機構の責任回避を告発する作品である.兵士は命を賭して国益を守るが,その兵士の後始末は政治家の都合によって歪められる.作品公開から四半世紀を経た今日においてもなお,痛々しいほどの現実味を帯びている.

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原題: RULES OF ENGAGEMENT

監督: ウィリアム・フリードキン

130分/アメリカ/2000年

© 2000 Paramount Pictures, Inc.