■「ファンタスティック・プラネット」ルネ・ラルー

ファンタスティック・プラネット [Blu-ray]

 人間より遥かに巨大で,全身真っ青の皮膚に目だけが赤いドラーク族が支配し,人間は虫けら同然の惑星.孤児となった人間の赤ん坊がドラーグ族の知事の娘ディーヴァに拾われ,ペットとして育てられた.テール(地球の意)と名付けられた赤ん坊は少年となり,ディーヴァが勉強に使っている学習器をこっそり使い,この惑星についての知識を深めていく….

 付けに過ぎない符号的なことだが,1998年7月24日にチェコ天文学者ペトル・プラヴェツ(Petr Pravec) がオンドジェヨフ天文台で発見した 小惑星は,”ヒエロニムス”と命名された.ネーデルラントの初期フランドル派の画家ヒエロニムス・ボス(Hieronymus Bosch)にちなんでいる.本作は,その26年前にチェコのイジートルンカスタジオで製作されたカルトアニメ.

 ボスやピーテル・ブリューゲル(Pieter Bruegel)の影響を受けたと思われる映像作家ローラン・トポールRoland Topor)の写実的アニメーションは,4年の歳月をかけて完成した.映画化はチェコ所縁の背景が目立つが,原作はフランスSF作家,ステファン・ウル(Stefan Wul)の”Oms en Serie”(オム族がいっぱい).真っ青な皮膚に赤眼の巨人族,獰猛で凶悪な動植物の造形はぎこちない動きを見せるが,それがシュールな不気味さと相まって魅力を増幅している.

 当時としては珍しかったシンセサイザーを駆使したサイケデリック/プログレッシヴな融合的スコアも記憶に残る.天敵不在の惑星で生物の頂点に君臨するドラーク族に対抗する人類の死闘は,ガリヴァ旅行記の諷刺に似た間抜けた雰囲気があり, 小惑星”ヒエロニムス”にこのような種族間闘争があったなら,さぞかし奇体であっただろう.そんなイマジネーションを刺激してくれる作品である.

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原題: LA PLANETE SAUVAGE

監督: ルネ・ラルー

73分/フランス=チェコ/1973年

© 1973 Argos Films