■「静かなる叫び」ドゥニ・ヴィルヌーヴ

静かなる叫び [Blu-ray]

 1989年12月6日,モントリオール.理工科大学に通い,就職活動中の女子学生ヴァレリーとその友人であるジャン=フランソワは,いつも通りの一日を送っていた.しかし,そんな日常は突然,恐怖に陥れられる.男子学生の一人がライフル銃を持って構内に入り,女子学生を目がけて次々と発砲し始める.容赦ない銃撃に必死に逃げ惑う学生たち.犯人は14人もの女子学生を殺害し,最後は自殺を図る.重傷を負いながらも生き残ったヴァレリーと,負傷した女子学生を救ったジャン=フランソワ.心に深い傷を負った2人は….

 躍が目覚ましいドゥニ・ヴィルヌーヴ(Denis Villeneuve)は,最初の2本の映画「Un 32 Aout Sur Terre」(1998)と「渦」(2000)に失望し,専業主夫として9年間の休暇を取った.彼は「誇りに思える映画を作る準備ができたら」戻ってくると誓った.それが本作である.1989年12月6日,モントリオール理工科大学で起こったライフル銃と狩猟用ナイフによる虐殺事件――14人の死者(女性の学生13人,大学職員1人),14人の負傷者(男性は4人)――自分の人生を破滅させたフェミニストを抹殺する決意をし,遺書をしたためる青年の手紙の長い朗読で始まり,銃撃が彼女にどのような影響を与えたかを表明した犠牲者の一人(生存者)の手紙の長い朗読で幕を閉じる.

 犯人の遺した手記には殺害候補となった19人の女性の名前が書かれていた.コロンバイン銃乱射事件を題材にした映画「エレファント」(2003)を彷彿とさせる.冒頭のキャプションには,殺された女性たちを追悼するためと書かれており,映画の最後には彼女たちの名前が追悼的に登場する.銃乱射事件の当日からフラッシュバック,さらには予期的叙述(将来の結果を予想して記述)を用いて,さまざまな場面で描かれる.犯人は,最後に弾薬を装填するとライフルを自分の額に当て,自らの頭を撃ち抜いて自殺した.彼の頭から流れ出るその血は,近くで息絶えた犠牲者の血に交じって一つになる.何かを主張するわけでもなく,贖罪を提示するわけでもなく,ただ1989年12月6日に何が起こったかを描写している.

 本作は,画面上に血が映らないようにするためにモノクロで撮影されているため,「不気味」な雰囲気が漂い,荒涼とした印象を受ける.高度に様式化され,ほとんど印象主義的で非常にサスペンスフルである.モノクロとした理由はもうひとつあり,大学の構内にパブロ・ピカソ(Pablo Ruiz Picasso)の有名な反戦芸術《ゲルニカ》のレプリカが描かれている.ピカソは「色彩は救いになる」と考えたため,モノトーンで《ゲルニカ》を描いた.映画の中では名前が明かされない犯人の襲撃を生き延びた男女のうち,一人は生き続ける葛藤に耐えきることはできなかった.

 もう一人は「犯人は自殺して解放されたが私は呪縛の中にいる」と苦しみを抱きながら人生に向き合う決意を固めていく.この世にどれほどの憎しみが存在しうるかを示したピカソの精神にインスパイアされた作品ともいえるだろうか.青年の憎悪犯罪は呪術的な影響を残したが,フェミサイドとヘイトクライムの動機は映画では考察されていない.アスペクト比は2:35(標準の1:85とは対照的)という超ワイドスクリーンで構成されている.本作は,商業公開される前に犠牲者の家族向けに上映され,映画は彼らの理解を受けて公開された.カナダでは事件の発生した12月6日を「女性に対する暴力の追悼と行動を祝う国家的な日」として定めている.

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原題: POLYTECHNIQUE

監督: ドゥニ・ヴィルヌーヴ

77分/カナダ/2008年

© 2008 RP POLYTECHNIQUE PRODUCTIONS INC