イタリアの小さな港町で妻,娘,息子と平穏な日々を送る精神科医ジョバンニ.しかしそんな日常は一瞬にして断ち切られた.息子のアンドレアがダイビング中の事故により死んでしまったのだ.ジョバンニは自身を責め,仕事も辞めてしまう.そしていつまでも悲しみに暮れる家族は,いつしか絆を失っていく…. |
ライフイベントとは,喜びも哀しみも包括する多様な人生の出来事であり,本作はその本質を深く理解させてくれる.人生の苦痛をリアルに描きつつ,それを乗り越える人間の精神を静かに提示しているからだ.平凡な人生など存在しないが,地味な日々が続けば,人はそのことに思いを馳せることすら忘れてしまうものだ.本作では,アンドレアを失った家族がそれぞれの葛藤と自問自答の日々に浸る様子が描かれる.
父であり精神分析医である父親,母親,年の近い姉,それぞれ繰り返される問いと浮かんでは消える答えに逡巡する.家族を「システム」として捉えるならば,肉親の死という最大級の衝撃に見舞われた「共同体」が,いかに脆弱であったかが露呈される.もちろん,当事者はその脆弱性を自覚していない.喪失を簡単に再生に結びつけない物語の展開は,陳腐さを避けていて素晴らしい.
遺族としての家族の迷いと悲嘆の受容は,歓迎できない出来事を含めた「許容性」が生まれるまでのプロセスを描いている.人生には予測できない側面があり,それは予測できるものよりもはるかに大きい.これらに対処する喜びと痛みを感じながら,変革していく家族の姿を鋭く捉えた作品である.ブライアン・イーノ(brian eno)の静謐な音楽《by this river》は忘れがたい余韻を残す.
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原題: LA STANZA DEL FIGLIO
監督: ナンニ・モレッティ
99分/イタリア/2001年
© 2002 Alliance Atlantis Media