| レルモントフが主宰するバレエ団のロンドン公演が行われた．そこでレルモントフは2人の逸材を見つけ出す．社交界の令嬢でダンサーのヴィッキーと作曲家のクラスターだ．レルモントフは新作バレエ「赤い靴」の作曲にクラスター，プリマにヴィッキーを起用．本拠地のモンテカルロでの公演は大成功を収め，2人は一夜にしてスターになる．やがてヴィッキーとクラスターは愛し合うようになるが，レルモントフの怒りを買うことになる…． |
ひとたび履いたら，絶命するまでステップを踏み続けることになる呪いの「赤い靴」．ハンス・クリスチャン・アンデルセン（Hans Christian Andersen）の童話を下敷きに，サドラーズ・ウェルズ・バレエ団に在籍していたプリマのモイラ・シアラー（Moira Shearer）が，心身を消耗し尽くす悲壮．幻想的な映像美もまったく色褪せることはない．バレエ・リュスの花形ダンサーとなったレオニード・マシーン（Léonide Massine）が，劇中バレエの靴屋のシーンで舞う．
マシーンは，バレエ・リュスを解雇されたヴァーツラフ・ニジンスキー （Вацлав Фоми́ч Нижи́нский）の後に収まったスターであり，ニジンスキーを追放したのは，彼と同性愛関係を結んでいたセルゲイ・ディアギレフ（Sergei Diaghilev）．クロード・ドビュッシー（Claude Achille Debussy）に「石をも踊らせる恐ろしいが魅力的な男」と言わしめたディアギレフの芸術にかける情熱は，神経を病んだニジンスキーにとって，私生活と芸術の間で苦悶を強いる冷酷と受け止められただろう．
赤い靴に足を入れた瞬間から，息絶えるまで踊り狂うヴィッキーは，疲れ果ててナイフで靴紐を切ろうとする．その刹那，ナイフは樹の枝に変化して意味をなさない．バレエ団主催者レルモントフに見出され，新作「赤い靴」の主役に抜擢されたヴィッキーは，作曲家クラスターとの結婚で公私ともに充実できるかに見えた．「両立は不可能だ．不確かな人間の愛に頼るダンサーは決して芸術家にはなれない」．レルモントフの突き放しに彼女は悲嘆に暮れるが，一旦足を踏み入れた芸術に潜む魔は，才の際立つ者を深く引き込み破滅に導き，決して逃がさないのである．
本作のテクニカラー色彩の鮮やかさ，その幻想性は，フランシス・フォード・コッポラ（Francis Ford Coppola），マーティン・スコセッシ（Martin Scorsese）らの心を掴んだ．スコセッシは，2年の歳月をかけてデジタルリマスター・エディションを完成させ，2009年のカンヌ国際映画祭を飾った．アンデルセンだけではなく，ニジンスキーとディアギレフの抜き差しならぬ関係性とその破綻が，モチーフでありオマージュとなっている作品．
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原題： THE RED SHOES
136分／イギリス／1948年
© 1948 Carlton Film Distributors Limited.
