インドで孤児たちの救援事業に従事するデンマーク人,ヤコブ.運営している学校の財政難に頭を悩ますヤコブのもとに,デンマークの実業家ヨルゲンから巨額の資金援助の申し出が舞い込む.そして面会したいというヨルゲンの求めに応じて,久々に故郷デンマークへと戻ったヤコブ.面談を無事終えた彼は,ヨルゲンから週末に行われる娘アナの結婚式に強引に招待され,断り切れずに出席するのだったが…. |
結婚はひとつの儀式であり,幸福の代名詞と見るかどうかは価値判断に依存する.財力と善意,現実主義と理想主義の対比をなすデンマーク人男性2人の生き方は対極にみえて,ゲマインシャフト的な血縁社会でつながる.映画の冒頭,開発途上国の象徴と思える不潔と不衛生のインド,一方では先進国デンマークの富裕と発展をうかがわせる情景を映し出す.あきらかに貧富を対比させながら,どちらの境遇で生きようとも幸福の絶対的価値は相対的に決定されるものではないことが明らかにされていく.
1人の美しい娘の結婚式によって,それまで無縁でしかなかった2人の男性の人生観が交錯する.さらに彼らの家族関係が思いがけない形で接近・膨張することで当事者の感情は激しく揺れ動くのだ.スサンネ・ビア(Susanne Bier)の作品群は,日常生活の視点とその延長線に待ち受ける暴力・喪失といった試練に,人は何をもって対峙しうるかを描いている.本作では結婚という儀式を通じた人々の自然連帯,そこに介在する愛情とその持続には,義務と苦しみが伴う心情を人物の眼と唇のズームアップで至近に感じさせ,心象そのものは木や花といった植物のゆらめきで詩的に表現する.
誰もが幸福を求めているが,個人の努力によって得られる見返りの保証などはないし,その不徳や反省に気付くタイミングがいつ訪れるかも予測などできない.時には愚行を犯すこともあるだろう.それでも,本質意志を求めて心のままに行動するしかない人間の本性――その本質は家族愛と呼べるものに帰結する――,メロドラマにおける人物のドグマとして描き出している.
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原題: EFTER BRYLLUPPET
監督: スサンネ・ビア
© 2006 Zentropa Entertainments, et al.