他人とうまく関わり合えない青年・雄二.ある夜,彼が唯一心を許せる同僚の守が,勤務先の工場長夫婦を殺害した.刑務所へ面会に訪れる雄二に対して,彼に譲ったペットのアカクラゲのことばかり,守は気にかける.苛立つ雄二は水槽をひっくり返してしまうが,クラゲはそのまま床下に流れ去っていく.それからしばらく後,雄二にだけ分かる“行け”のサインを残して,獄中で守が自殺した…. |
いくつかの記号が,一定の方向性を示している.アカクラゲのアトランダムな浮遊は,若者の無軌道と被る.クラゲの発光は,若さを持て余す高校生の逸脱行動のシンボル「インカム」の点滅,彼らが着込むのは,チェ・ゲバラ(Ernesto Rafael Guevara de la Serna)の肖像がプリントされた画一的なTシャツ.おしぼり工場で惰性な生産ラインに乗るだけの雄二と守は,無感動で刹那的,しかしどこか禁欲的.守の穏やかな物腰に隠れた暴力性に惹かれる雄二は,粗野な高校生集団とも意気投合できる.本人が向うべき場所も,それを探す目的性も守は持たない.
黒沢清のオリジナル脚本は,他人と適切に同調することもなく,相手を尊重しようとすることもない世代の憮然とした自己本位性を描くもの.本作の若者と,隔絶された中高年世代とのミスマッチを引き起こすパターンはセンチメンタル.2人の若者の行動様式を「だいたい把握した」とほくそ笑む雇用主は,まるで的外れの行為に2人をつき合わせるが,それがもとですべてを奪われる.未来はいつでも明るいと雄二はニヤつく.その未来は,睡眠中にみる夢においてのみ輝いていることを,彼は直視できない.
守の父・真一郎の叱責.全共闘世代の男が,若者に向ける眼は,厳しくも共感的.雄二が胸襟を開き,夢の話を打ち明けるシーン.あるいは,厳しい咎めに逃亡後,真一郎の元に戻ってくる擬似父子関係.アプローチを正しく選択すれば,意味不明な行動者にアクセスできることの表れ.映画の解釈としては,真一郎が雄二に与えた「和解」「抱擁」は正しく,社長が守に与えた「強権による決定」は,「破滅」で報復された.
もっとも,破壊のベクトルを自己に向けざるを得ない守の末路は当然であるし,真一郎も実子とは断絶関係にあって修復不可.“魚”には,適した“水”でしか応えられない.全編24PHDとDVで行われた撮影は,ハーフ・トーンを潰し,影の部分が真っ黒に塗り潰した.パシフィック231の音楽,北村道子の独創的な衣装.現実感を薄め,胡乱な世界を作り出す.だが,世代間落差の当惑に関しては,きわめて現実的なのである.
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原題: アカルイミライ
監督: 黒沢清
115分/日本/2002年