■「ランダム 存在の確率」ジェームズ・ウォード・バーキット

ランダム 存在の確率 [DVD]

 ミラー彗星が,地球に最も接近する夜.エムは恋人のケヴィンと,友人のホームパーティーに訪れる.すると突然,停電で部屋が真っ暗になり,パニックになる男女8人.外の様子を見に行ったエムたちが目撃したのは,まったく同じ家に住む,まったく同じ自分たち.別世界の自分たちが,同じ空間に同時に存在するという驚愕の事実を目の当たりにする….

 ラー彗星の急接近で地球の重力場が乱れ,時間・空間の計量が歪んで時空構造の“ねじれ”を起こす.チープなB級テイストながら,並行世界の相互干渉を扱っていて面白い.モチーフは量子力学に関する思考実験「シュレーディンガーの猫」.1時間以内に毒ガス発生確率50%という装置を備える密閉箱に猫を閉じ込める.1時間後,猫が生きている確率は50 %,死んでいる確率も50 %.量子力学的には,崩壊していない(生きている)状態と崩壊している(死んでいる)状態は,「1対1の重ね合わせ」の状態と考えるが,これは確率論的にしか表現できない.

 猫の50%が崩壊,残りの50%が未崩壊という事態は考えられない.よって,猫の生死は箱を開けるまでは不明だが――毒ガス発生をミクロ現象,猫の生死をマクロ現象とすれば――マクロ状態はどこの時点で決定されるのか.ホームパーティー空間に集った男女8人が遭遇したのは,通常は干渉し合うことのないパラレル世界の「分身」.しかも同時存在する8人のコミュニティは複数存在し,姿かたちはそっくり同じでも,人間関係が微妙に異なっている.そのコミュニティに潜入し,「分身」になり替わることも可能,というマクロ現象の“ブレ”に着目した構成である.

 シュレーディンガーの猫には2つの解釈がある.1)猫の生死が確定するのは,箱を開けて観測した段階で重ね合わせの状態の波動関数が収縮した時点とする「コペンハーゲン派の確率解釈」.2)猫が生きている世界と死んでいる世界に分かれる分岐は,箱を開けて観測した段階で重ね合わせの状態が分かれた時点とする「多世界解釈」.本作は,後者の解釈に立つもの.邦題のサブタイトルは,「存在の確率」ではなく「存在の解釈」とするべきだろう.

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原題: COHERENCE

監督: ジェームズ・ウォード・バーキット

88分/アメリカ/2013年

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