▼『イランの核問題』テレーズ・デルペシュ

イランの核問題 (集英社新書 441A)

 イランのアフマディネジャド大統領が推し進める核開発の真の狙いは何か?フランスで最も権威のある文学賞・フェミナ賞(エッセー部門)を受賞した核問題の専門家が,世界の安全保障を揺るがす事態を鋭く解明.アメリカ,ロシア,中国,パキスタン,インド,イスラエル北朝鮮,エジプト,サウジアラビア南アフリカ共和国等の世界十ヵ国や,EUおよび国際原子力機関(IAEA)が,これまでにどのような立場を取り,今後どのような行動を起こすべきなのかを,多角的に分析した渾身の論考.本書一冊で,現代世界の核をめぐる地政学をコンパクトに一望できる――.

 ランにおけるウラン濃縮活動が活発化していることは,いまや公然の事実となっている.原子力庁長官や外務大臣が「平和的な核技術の利用の権利」をアナウンスしても,それを額面通りに受け取るほどの楽天家はいない.2012年には,イランの核開発をめぐる各国との協議は3回の機会がもたれた.いずれも非協調に終わっている.イランは核開発の詳細を国際原子力機関IAEA)に報告せず,査察も拒んでいる(完全拒否というわけではない).

 核兵器の開発につながるウランの濃縮度は20%.イラン隣国の湾岸諸国,その他アラブ穏健諸国,イスラエル欧州連合の懸念は,「核兵器保有国家イラン」の出現に向けられる.軍事オプションにおけるウラン濃縮術が存在意義を高め,核兵器不拡散条約の加盟国の義務を逸脱する想定は,悪夢的なシナリオとなる.ジョージ・W・ブッシュ(George Walker Bush)が第43代アメリカ合衆国大統領在任中,「悪の枢軸」と名指ししたのはイラン,イラク北朝鮮.核の脅威の観点から「監視すべき国家」として,その優先順位は当時北朝鮮,イラン,イラクの順だった.

 イラン革命以前から核開発の準備を進め,核兵器開発との関連が疑われているテヘラン郊外のパルチンの軍事施設への査察を拒絶する.そのような国家イランの安全保障上の影響を再考する必要性が高まっている.本書執筆当時のテレーズ・デルペシュ(Thérèse Delpech)は,フランス原子力庁戦略研究局長,フランス国際問題研究所客員研究員,ロンドンの国際戦略研究所顧問,国連監視検証査察委員会委員,赤十字国際委員会顧問.2012年に死去しているが,イランの核開発を10年以上にわたり分析してきた論点は豊富.インフォメーションレベルの内容を大きく超え,難解な記述も散見されるのも確か.関連書で知識の補強が必要な文献となっている.

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Title: L'IRAN,LA BOMBE ET LA DEMISSION DES NATION

Author: Thérèse Delpech

ISBN: 9784087204414

© 2008 集英社