■「オープン・ウォーター」クリス・ケンティス

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 ワーカホリックの夫婦,スーザンとダニエルは,ようやく取れたバカンスで,カリブ海に向かう.ツアー客で満員のダイビングボートに乗り込んだふたり.水深18メートル,約35分のダイビングへと意気揚々と海に飛び込んでいく.精神的に開放されたスーザンとダニエルは,この貴重なひとときを満喫する.しかし、海上のボートでは,今まさに彼らが体験する最も怖い悲劇の序章が始まっていた….

 刻な災害には,それまでに必ず予兆があるものだ.自然災害だけでなく,人的災害にもそれはあてはまる.保険会社のリサーチを担当していたハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ(Herbert William Heinrich)は,労働災害5,000件の分析を通じて,「重傷1:軽傷29:ヒヤリ・ハット300」という法則を導き出した.すなわち,1件の重傷事例の陰には,29の軽傷事例と,300の“危なかった”事例が潜んでいるという法則である.

 共働きで多忙を極めるスーザンとダニエル夫妻は,延期を続けていた休暇をやっと取得.バカンスでカリブ海に向かった.ダイビング・ツアーに参加し,水深18メートル,35分間のダイビングを満喫した.海面に浮上した2人は異変に気付く.停留しているはずのダイビングのツアーボートが見当たらないのだ.船員の手違いと思い込みにより,夫妻を残してすでにボートは帰路に着いてしまったのであった.見渡す限りの大海原には,人影は皆無.災難を嘆きながらも救助を待つ2人の周囲に,サメが群れをなして接近してくる.

 低予算映画が興行をひっくり返すことはよくあるが,それは映画のアイデアが秀逸であることが条件である.本作は,無骨な出来ながら,海にまつわるホラーとサスペンスと悲劇の要素がうまく噛み合った点で,評価されるべき作品である.人員のカウントミスは,もとより夫妻に何の非もない.しかし,現実はそんなことに容赦なく「脆弱な者」に牙を剥く.何の予兆も警告もなく,ゲームオーバーに向かって漸進していく2人の足掻きは,見ていて息が詰まる.この話が実話に基づくということも,息苦しさを助長する.

 監督とプロデューサーは,実際の夫婦でもあり,オープン・ウォーター<開放水域>で生じる「恐怖の過失」をテーマとする映画を考案した.映画後半は夫妻のいがみ合いと共同戦線とその敗北が描かれるが,夫妻役の俳優は,海岸沖32キロの海原で120時間以上を過ごして撮影に臨んだ.CGや特殊効果も一切なく,忍び寄るサメは本物である.その環境で演技をさせるのだから,インディペンデント映画の強みは,時として資金力のなさから製作にエクスキューズを与えないことにある.ダイビング経験のある人ほど,背筋に流れる冷たい汗を感じることができるだろう.

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原題: OPEN WATER

監督: クリス・ケンティス

79分/アメリカ/2004年

© 2004 Plunge Pictures LLC.