■「マルサの女」伊丹十三

マルサの女<Blu-ray>

 税務署のヤリ手調査官,板倉亮子.ある日,彼女はラブホテルのオーナー・権藤に目を付け,調査を開始する.だが彼は一筋縄でゆく相手ではなかった.さすがに苦戦する亮子.そんな中,国税局査察官≪マルサ≫に任命された亮子は,上司の花村らと共に再度権藤を調べるが….

 丹十三は,「お葬式」(1984)のヒットから生じた税の支払い義務から,「お金と日本人」というテーマを温め続けていた.映画の「女シリーズ」第一作となる本作は,脱税王とマルサの駆け引きを軽妙に描き出している.名義は瀕死の老人であるペーパーカンパニーを設立し,架空融資が焦付いたことにして貸倒損失を編み出す.また,表帳簿と裏帳簿を使い分けて,国税局を欺こうとする.それらの手法が時代により形を変えても,税逃れと相対する摘発の意義は変わらない.

 査察制度は,悪質な脱税者に対して刑事責任を追及し,その一罰百戒の効果を通じて,適正・公平な課税の実現と申告納税制度の維持に資することを目的としている(国税庁「査察の概要」).マルサは,国税犯則取締法に基づく調査で,犯則嫌疑者を検察官へ告発することを目的とした強制捜査であり,内偵調査等により既に「脱税」の裏が取れていることを特徴とする.

 租税犯についての調査・処分に関する法制定は1890年と古い.国税犯則取締法により,査察は強制調査を行って差し押さえた証拠や質問調査によって脱税の事実を固め,検察に告発する.普段は国民にとって“目の上の瘤”でしかない税務署や国税局だが,犯則事件について刑事責任追及の必要がある場合,裁判所の許可を得て臨検・捜索・差し押えを行う.不正を厳格に罰する機構がなければ,適正公平な課税秩序は守られないことは,当然のことだろう.

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原題: マルサの女

監督: 伊丹十三

127分/日本/1987年

© 1987 伊丹プロ=ニュー・センチュリー・ブロデューサーズ