▼『四人はなぜ死んだのか』三好万季

四人はなぜ死んだのか―インターネットで追跡する「毒入りカレー事件」 (文春文庫)

 中学の夏休みの理科の宿題で,和歌山の「毒入りカレー事件」を取り上げた15歳の少女は,インターネットを駆使した調査と綿密な分析によって,やがて驚くべき結論に辿り着く…「犯人は他にもいる」.文芸春秋読者賞を史上最年賞で受賞,「天声人語」他各紙誌で絶賛を浴びた話題作.著者の「その後」を描く書き下ろしも収録――.

 の中の欺瞞を見透かし,喝破して内なる正義を雄々しく叫びたい――思春期を迎えた中学生なら,一度は考えることである.鼻息荒く意気込む子供の姿を,大人は微笑ましく,時には苦々しく思うのもまた,世の常であるのに違いない.本書は,和歌山市園部で起きたいわゆる「毒物カレー事件」を題材にしたレポート「毒入りカレー事件――犯人は他にもいる」(『文藝春秋』98年11月号掲載)を収録,素朴な疑問から始まった調査について,そのいきさつの回顧録からなっている.中学3年の少女による夏休みの一課題が文藝春秋読者賞を受賞,朝日新聞のコラムで2日にわたり紹介され,世論を新鮮な驚きで見舞った事実は,一過性だったにせよそれなりに注目に値する.

 著者の調査法はインターネットに相当依存し,穿った見方をするならば,結果論を補強するための材料を巧みにつなぎ合わせた印象がないわけではない.それは「研究」にはなりえず,やはり中学生が書いた「すばらしいデキ」のレポートの域を出ないのである.中学生だった彼女にそれを批判されるいわれはない.論理の拙さや背伸びした表現が目障りな部分もあるが,若さが正直に出ていて一方で可愛らしい.

 そんなことより,あの酸鼻をきわめた事件を10代の眼で観察し,素朴な疑問から出発し,一考に値する調査書にまで高め上げた筆者の純粋な正義感,バイタリティに賛辞は与えられるべきだろう.世の中を批判する若者の声を封殺する社会の未来は暗い.もう1つ,本書を単に中学生が書いたレポートだからと唾棄すること,あるいは諸手をあげて主張に賛成すること,そのいずれも筆者が問題視した「大人の思考停止」にほかならないことを,読者は知っておく必要があるだろう.

† 追 記 †

 将来を期待された著者は16歳で高校中退,医師になる夢を叶えるためメリーランド大学グローバルキャンパス(ヨコタキャンパス)入学を希望していたが消息不明

 1983年の大河ドラマ徳川家康」で0歳の豊臣秀頼を演じているらしいがどうでもよい

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原題:四人はなぜ死んだのか―インターネットで追跡する「毒入りカレー事件」

著者: 三好万季

ISBN: 4167656086

© 2001 文藝春秋