■「人のセックスを笑うな」井口奈己

人のセックスを笑うな [Blu-ray]

 19歳の美術学校生のみるめ.ある日,絵のモデルを20才年上の講師ユリに頼まれ,その自由奔放な魅力に,吸い込まれるように恋におちた.友人の堂本に問いただされ,みるめは彼女との仲をうれしそうに告白するが,いつもつるんでいる仲間のえんちゃんの顔は曇ったままだった.初恋に有頂天のみるめだったが,実はユリは結婚していた….

 0になったら自分の顔に責任を持て,とはいうが,40間近にしてその半分の年齢差の男子を籠絡する.その犯意のほどはいかなるものか,該当者は徹頭徹尾,「老けた子供」であるということを再認できる.四半世紀プラス15年という人生経験を持ちながら,モラリストを鼻で笑う奔放さ.瀬戸内晴美(寂聴)にいう「本当の悪女には,童女性とでもいうような性質が備わっている」は,まさに至言.

 リトグラフの講師ユリにじっくりと絡めとられていくみるめ(珍名だ)の哀れさは,直視に堪えない.複雑な女ごころを処理しかねるえんちゃんも気の毒だが,みるめの比ではない.この手の題材に137分は長すぎる.シーンの一つひとつも冗長で,要領の悪さが際立っている.ユリのような破天荒さをフィクションの産物とだけ解釈できれば,微笑ましく平和なコメディと受け取れる.しかし,ユリの核心部分を面影として現実の人間関係に発見したならば,たちまちホラー映画の装いとなる.

 「女性監督ならではの繊細な感情」を表面的にアピールする映画だが,油断はならない.年だけは経て子供の無邪気さを撒き散らし,行為に対する責任能力はゼロ.反省と成長とも無縁.その周囲の人々の疲弊といったら――悪女は戦慄すべきメンタリティの持ち主といわねばならない.これは,その恐怖の放談である.

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原題: 人のセックスを笑うな

監督: 井口奈己

137分/日本/2007年

© 2008 「人のセックスを笑うな」製作委員会