▼『なぜ三ツ矢サイダーは生き残れたのか』立石勝規

なぜ三ツ矢サイダーは生き残れたのか-夏目漱石、宮沢賢治が愛した「命の水」の125年

 ロマンと苦闘に満ちた「三ツ矢サイダー」.文豪・夏目漱石宮沢賢治が愛した飲み物はサイダーだった.誕生は大航海時代に遡るサイダーが,なぜ,日本上陸から125年たった今も生き残れているのか――.

 酸飲料の中でも,国内ブランドの旗手が三ツ矢サイダーといっていいだろう.戦前の5度の名称変更,6度のメーカー変更という紆余曲折があり,コカ・コーラや多用な清涼飲料水の襲来,合成甘味料仕様の変転(チクロ・ショック)のすべてを凌ぎきった.

 ナショナル・ブランドの確立には,競合メーカーの吸収合併で資本力を高めたことが大きいが,戦前のカラメル使用を断念せざるを得なかった時,一つの岐路を迎えていたのではないか.無色透明,砂糖と香料のまぶされたクエン酸コハク酸の人工炭酸水.ライバル飲料水の動向も交え,125年の三ツ矢サイダーの変遷を俯瞰する.殺菌力の強さに着目した軍部が,軍需品としてサイダーを戦線に送り込んだ経緯などは,GHQ進駐軍がコーラを片手に占領地を闊歩した情景と対照的.

 夏目漱石宮沢賢治に食の歓びを与え,病の苦痛を忘れさせた.戦艦大和の乗組員が飲んでいたサイダーとは,三ツ矢サイダーであったことだろう.後に,アサヒ飲料顧問を務めた元新聞記者の筆は,豊富な情報源を捌いて,ソフトドリンクの一角から,日本の飲料商品と時代背景の一面史を描き出す.

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原題: なぜ三ツ矢サイダーは生き残れたのか―夏目漱石宮沢賢治が愛した「命の水」125年

著者: 立石勝規

ISBN: 9784062153560

© 2009 講談社