■「ダーウィンの悪夢」フーベルト・ザウパー

ダーウィンの悪夢 デラックス版 [DVD]

 アフリカのビクトリア湖は多様な生物が生息していたことからかつて“ダーウィンの箱庭”と呼ばれていた巨大湖.そんなビクトリア湖に,今から半世紀ほど前,外から持ち込まれた肉食の巨大魚“ナイルパーチ”が放たれた.グローバル経済に取り込まれたアフリカの一地域で引き起こされた悪夢のような現実をセンセーショナルに描き出す衝撃のドキュメンタリー.

 ンザニア・ウガンダケニアをまたぐヴィクトリア湖は,アフリカ最大の淡水湖.半世紀近く前,放流されたバケツ一杯の外来魚「ナイルパーチ」は,体長2メートル,体重100キロにも成長する肉食魚.湖の“生物多様性”を食い荒らし,その白身はEUと日本に輸出される.タンザニアの田舎町ムワンザには,ナイルパーチの水産加工場が立ち並び,かつて“ダーウィンの箱庭”と呼ばれたヴィクトリア湖を様変わりさせた.

 強大な資本を誇る国にナイルパーチの身は切り売られ,日本ではスズキの代替品として,白身魚のフライや粕漬けの材料にされる.ナイルパーチの輸出と対になる輸入品は,内乱で駆使される銃器類.工場の周囲には貧民の住居が集い,空輸パイロット目当ての売春婦が屯する.当然に蔓延するのはエイズ.子どもたちはナイルパーチ梱包用の発泡スチロール――劣化したもの――を溶かして有毒ガスを吸い,束の間の恍惚感を得る.タンザニア全体の輸出額25%を占めるのは,他ならぬナイルパーチ

 在タンザニア欧州委員会代表も認めるように,最貧国のひとつに数えられるタンザニアの基幹産業に,ナイルパーチが貢献している.けれども,ムワンザがとこしえに栄えることはない.植物食の魚類をナイルパーチが貪欲に食い尽くしたため,漁獲量は減り,いずれは枯渇する.湖の生態系は壊滅的な状態に陥り,ダーウィンの箱庭は“死の穴”と化すだろう.

 有用な資源を資本力を武器に追求することが,ドミノ倒しの悪夢を地域にもたらす.そのジレンマの直面した無為な人々の姿を,映画は淡々と描く.環境を侵しながら進むグローバリズムの「経済合理性」は,カカオ,バナナ,エビなどと同様に搾取の形態をとる.資本の暴走と連鎖を食い止める問題提起は陳腐だが,問題の具体的な連環構造を主張している.白身魚の背景の「現実」は,特殊な一商品ではなく「日常的商品」である.その事実に,眼を開けと訴えるものだ.

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原題: DARWIN'S NIGHTMARE

監督: フーベルト・ザウパー

112分/オーストリア=ベルギー=フランス/2004年

© 2004 Mille et Une Productions, et al.