■「バトル・ロワイアル」深作欣二

バトル・ロワイアル 特別篇 [DVD]

 全国の中学3年生4万3000クラスの中から無作為に選ばれた1クラスを,最後の1人になるまで殺し合わせる新世紀教育改革法・通称【BR法】1人ずつ支給される様々な凶器.ルールを破ると爆発する首輪.外界から遮断された無人島で,42名の中学生たちの,血塗られた3日間が唐突に,そしてあまりに理不尽に幕を上げてゆく….

 庭に配置された「ピース」がそれぞれ意思をもち,談話や駆引きをすれば格好の客引きとなるだろう.『ガリヴァ旅行記』に登場する小人リリパットのごとく,人間の理非がミクロ化されているならば,寓話としての娯楽が生まれる.本作は,「コップの中の嵐」を大袈裟に描いて見せたものである.静観すれば大きな波紋を呼ぶものでなかったが,中学生同士が無差別に殺し合うという設定上,社会的に「咎め」を受けることとなった.

 国会の場で,文部大臣(当時)が政府に作品の解釈を問うことも異例だったが,大人と子どもの世代間断絶を懸念するほどに,本作は思想の隈取りはない.嵐は小さく,包むコップは紙でできていた.憂慮すべきは殺人に手を染める子どもたちの危険性ではなく,呼びかけ次第で天使にも悪魔にもなびく人間の本性であるはずだ.それを世間に開陳して見せた大人の立場があり,一方ではそのような立場を非難する大人が,ヒステリックに作品を断罪する.だが物議を醸すほどの芸術性,中学生同士の対人観を破壊的に揺さぶる醜悪さはともに,本作にはない.

 一見して判るのは,殺傷用具の間抜けなセッティング.流血や死骸の馬鹿馬鹿しいまでのチープさ.幼いとはいえ,死に直面した人間の群れがなすはずもない愚鈍な対立.「加害者」「被害者」の関係が目まぐるしく交代する中で,傍観者である大人の「管理性」という鼎立の構図は,現実社会に戦慄を投げかけるには幼稚すぎるパロディ.深作欣二は,高見広春の同名小説を映画化する動機に,戦中の学徒動員により水戸市の軍需工場で従事した旧制中学3年生当時の記憶を振り返っている.

 国家への不信や大人への憎しみを感じたというが,敵国を害することの正当性を強制され,終戦後は民主主義の素晴らしさに同調することを求められた憤激が,本作に投影されたようには思われない.「仁義なき戦い」シリーズにおける,無謀の中にも存在する執念の迸りは,本作には微塵もない.体制への抵抗と挫折,その虚しさを主張することのみが,プロットに据え置かれている.この作品は娯楽作ではあるが,社会の縮図を作成するほどに危険な創造性はない.

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原題: バトル・ロワイアル

監督: 深作欣二

114分/日本/2000年

© 2000 「バトル・ロワイアル」製作委員会