■「奇跡の243便」ディック・ローリイ

奇跡の243便(字幕スーパー版) [VHS]

 アロハ航空243便はハワイ島ヒロ空港をたち,オアフ島ホノルル空港へ向かっていた.離陸15分後,機内の飲み物サービスが始まったころ突然,天井が裂け,吹っ飛んだ….

 中では「パラダイス航空」という社名であるが,ハワイ-オアフ島の往復短距離を航行していたアロハ航空そのもの.1988年4月28日,アロハ航空243便ボーイング737が起こした事故の原因は,金属疲労と微細な亀裂の拡大の結果発生した破壊によるものだったと考えられている.高空を飛行中になんと機体上部が吹き飛び,CAひとりが機外に投げ出され命を落とした.しかし,上空7,300mで剥き出しになった客席を決死でケアし続けたCAと,機長昇進の試験飛行であった当便の副機長の冷静な判断と操縦,これら危機管理ならぬ危機対処の正否を問われた高度専門職のモジュールが,緊急時にいかに機能したかを描く.

 登場人物の野暮ったさなどCBS/FOXのテレビ臭は否めないが,機体の破損による極限状況は,意外に凝ったものだ.航空機は,飛行するごとに「破壊」を伴う.破壊力学からみた破壊の本質は,亀裂(クラック)の発生とその成長による帰結としての現象である.事故機となったN73711は,1969年に製造されて以来,アロハ航空で数機が保有され長期の飛行に耐えてきた.当時,世界で最も飛行回数の多いボーイング737のうち,N73711はN73712に次いで2番目に多い飛行回数となっていた.飛行により,機体は減圧と与圧を繰り返す.その圧力は1平方メートル当たり最大6トンにも及ぶという.アメリカの国家運輸安全委員会 (NTSB) の行った調査によると,人が航空死亡事故に遭遇する確率は0.0009%,さらにアメリカ国内の航空会社だけを対象とした調査ではさらに低く0.000034%である.

 陸上の乗用手段に比べ,航空機の事故発生確率はきわめて低い.だが,ひとたび事故が発生すると,機体もろとも乗員が一網打尽にされる可能性が高い.それゆえ,航空事故の印象は恐怖の感情を伴い,人々の脳裏に刻まれるのである.アロハ航空機の検査体制・整備力の弱さが事故原因を見逃したと,1989年6月国家運輸安全委員会の調査報告書に述べられた."マルチサイトクラック"と呼ばれるパネルの接合部分の老朽化,微細かつ無数のクラックの見落としである.亀裂はフレームで抑制されるはずという"フェイル・セーフ"の信憑を疑わせる最初の例ともいえるアロハ航空243便事故だが,飛行距離・飛行回数・飛行経年の各観点から,リスクマネジメントを講じる必要性を如実に示した事故でもあった.

 その後の航空界へ提供した教訓は少なからぬものであった.事故後,FAAは監督不十分を指摘され,老朽機体の検査の徹底プログラムを作成している.大惨事に至ってもなんら不思議ではない状況でのアクシデントであったが,重軽傷者多数ながら,死者1名でマウイへ緊急着陸成功とは,まさに奇跡的である.私見では,緊急時のCAのスキル発揮に感服させられた.いつだったか,日本航空の便に搭乗した際,担当女性CAは実に,おそるべき不美人な方だった.出張の疲労をせめて増幅させてくれるなと天を仰いで長嘆したものだ.本作を鑑賞後,CAの本務を何と心得る,と頬を打たれた思いだ.

奇跡の243便(字幕スーパー版) [VHS]

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原題: MIRACLE LANDING

監督: ディック・ローリイ

89分/アメリカ/1989年

© 1989 Columbia Broadcasting System (CBS)