敏腕弁護士のアーサーは愛人を迎え入れるため,妻を殺す事を画策する.しかしそこに自ら生み出したもう一人の自分であるギルティ・コンサイエンス(後ろめたい心)が実体として現れる.次々と変わる展開を主人公アーサーと妻,その愛人の三人の登場人物だけで描き切る…. |
記憶の信憑性を確かめる尋問技術から「証言の心理学」は発展してきたという.妻の殺害計画に伴う弁護士アーサーのギルティ・コンサイエンス(罪障感)は,いかに殺人への社会的制裁を回避するかの恐怖心に置き換えられる.彼の脳内で妻殺し計画を挑戦的に反駁するのは,アーサー本人の分身.
数々の実験で知覚や記憶の「いい加減さ」を実証してきた証言の心理学だが,「刑事コロンボ」シリーズを生み出したリチャード・レヴィンソン&ウィリアム・リンク(Richard Levinson & William Link)は,本作でも倒叙の醍醐味を開陳した.優れた知性は優れた肉体に宿る.そのことの証明に挑むように,アーサーの知的体力が試され,自己像と繰り広げる法廷尋問は,奇妙で知的スリリングに満ちている.犯罪計画の疑似体験と蹉跌は,画策する者のヒロイズムがあって鑑賞に堪えるものだ.
刑事コロンボが追跡者としての果断をなしていたことを思えば,本作のアンソニー・ホプキンス(Philip Anthony Hopkins)の優雅さはそれに対比された魅力的なキャラである.惜しむらくは,後半にアーサーの“脳内葛藤”を脱して,現実の人間関係が彼を出し抜く描写に流れること.これはいかにも勿体無い.夢オチならぬ妄想オチが最適な題材だったはずなのだが.
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原題: GUILTY CONSCIENCE
監督: デヴィッド・グリーン
94分/アメリカ/1985年
© 1985 Richard Levinson / William Link Productions,Robert Papazian Productions