■「スリーウイメン」ナンシー・サヴォカ,シェール

スリーウイメン [DVD]

 3部構成の社会派オムニバスドラマ.50年代の豊かな時代を背景にしたある看護師の葛藤,ベトナムで自由を勝ち得たアメリカの家族の絆,現代アメリカで正義を貫く女医.この3つのドラマを,それぞれデミ・ムーアシシー・スペイセク,シェール主演で描く….

 メリカ合衆国は,法定貨幣の裏に"In God we trust"(我ら神を信じるなり)と宣言している.高度に発達した先進資本主義国でありながら,国璽と宗教のドグマを両立させ,発展を遂げてきたと解釈されよう.その社会の一側面,保守主義進歩主義の対立に,現実の妥協と矛盾が生じる.1950~1990年代を通じた同一の地で,時代ごとの女性たちは妊娠・中絶をめぐり,プロ-チョイス (Pro-Choice)とプロ-ライフ(Pro-Life)の葛藤にいかに直面させられてきたか.1970年代前半までは中絶が違法とされていた.

 1990年代には,合法的人工妊娠中絶の98.8%が「吸引法」で実施されるなど,中絶技法の推進が見られる.「女性の権利」に対する社会の風潮がいかに遷移してきたかを理解させる3つのオムニバスは,各エピソードの主人公が置かれた設定が作り込まれていて,迫真的だ.自らの意思でいかがわしいヤミ医者に中絶を依頼せねばならなかった1950年代.出産と中絶の権利は確立されていくが,家族の理解なくして,女性の自己決定権は支持されないことが判明する1970年代.中絶技術が発展した反面,中絶を「殺人行為」と糾弾する超保守主義の勢力が強固な1990年代.

 政治家の拠って立つ教義によって,大統領選挙にさえ多大な影響を及ぼす宗教観は,プロライフ運動およびウーマンリブを「中絶」と「倫理」の狭間で激化させた.非合法な自宅堕胎を決行する女性(第1話)と,専門機関で十分な説明を受けながら処置を受ける女性(第3話)の対比が巧み.後者にあって前者にないのは,リプロダクティブライツ.そう思わせて,手術室に乱入してくる超保守主義者が,当事者たる女性のヘルス-ライツを攻撃する.

 センシティブな問題を複雑化し,精神的連帯からくる憤怒を向ける教条的ドグマの狂乱だが,本作の全エピソードは一貫して,女性を制圧してきた存在を指摘する.それは親族や家族の監視の目であり,社会制度すら左右する宗教の影響力である.一方,政治体制をまったく異にする社会主義国家――ルーマニアチャウシェスク政権――で,性と生殖に関する女性の自己決定権がいかに抑圧されてきたかを描く「4ヶ月、3週と2日」(2007)は佳作.あわせて鑑賞をすすめたい.

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原題: IF THESE WALLS COULD TALK

監督: ナンシー・サヴォカ,シェール

98分/アメリカ/1996年

© 1996 HBO NYC Productions,Moving Pictures