■「らくだの涙」ビャンバスレン・ダヴァー,ルイジ・ファロルニ

らくだの涙 [DVD]

 季節は春,ゴビ砂漠に四世代で暮らすモンゴルの遊牧民の大家族に,珍しい白い毛の赤ん坊らくだが1頭生まれる.ところが,難産の末にようやく出産した母らくだは,赤ん坊らくだに見向きもしないのだった.このままでは,赤ん坊らくだは死んでしまう.そこで,昔から伝わるように,母らくだの頑なな心を溶かすべく音楽療法を試みることにする.そのためには優秀な演奏家が必要だ.そこで,遥か遠くの町から演奏家を招くために,ドーテーとウグナの幼い兄弟がらくだに跨がり出かけて行く….

 年に1度,1頭ずつ子を産むラクダは,なぜじっとゴビ砂漠の地平線を見つめているのか.難産の末にうまれた白毛の子ラクダは,母から追いやられ,乳を求めて哀しそうに啼く.四世代からなる遊牧民の一家は,ラクダ親子の「健全化」に知恵を絞る.生活様式として,戸外の権限は祖父,屋内の実権は祖母が掌握している.

 強引に母子を引き合わせても,埒が明かず,ラクダの心を鎮めるには馬頭琴の音色を聞かせるとよい,という古くからの諺を実践することにした.フースと呼ばれる歌と馬頭琴の音色に呼応した母ラクダは,ぼろぼろと大粒の涙を流す.本当に,驚くほど滴の大きい涙である.それを境に,母性に目覚めたのかわが子に乳を与えるようになった.

 この感動的な場面は,演技指導を施すこともできないラクダの真実の目覚め.古来からの言い伝えや慣わしは,モンゴルの原野で人間と家畜が依り合って生きてきた家訓に等しい.遊牧民の子どもは,県庁のある都会の生活に憧れている様子がそのまま映し出されている.そこではTVやゲームが魅力となって子どもを捉える.

 古老の語り伝える教えを軽んじてはならない保守の価値観と,遊牧生活を捨てて近代的な生活に移行する趨勢が同時に流れている.だが個人の価値観が引き裂かれるというよりも,依然伝統的な連帯が,容易に変容を許さない起臥の生活を支え続けているように受け取れる.だから本作は,哀歌や挽歌の装いではない.

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原題: DIE GESCHICHTE VOM WEINENDEN KAMEL

監督: ビャンバスレン・ダヴァー,ルイジ・ファロルニ

91分/ドイツ/2003年

© 2003 Hochschule für Fernsehen und Film München (HFF), et al.