■「大地の子守歌」増村保造

大地の子守歌 [Blu-ray]

 秋の四国路の野山に,美しい鈴の音がこだまする.山道を踏みしめていく幼いお遍路の瞳はつぶらだが盲目であった.少女の名はりんという.彼女は四国の山奥で,ばばと二人で野性の子として暮していたが,ばばの死後,瀬戸内海のみたらい島に売られた.りんが13歳の時だった.島でりんを待っていたのは売春という地獄だった….

 く,激しく,悲しく――身売りされ,失明さえする少女の体現には3つの要素が不可欠と求められ,16歳当時の原田美枝子は,増村保造からの酷な指令に応えようとした.反骨の少女りんのけなげさ,執拗な虐待場面が繰り返し描かれるが,女性の強さは,表面的なパワフルさ以外に表層のイメージを超えて,内面や複雑な情熱をどのように物語に据えるかで,印象が大きく変わる.

 柳に雪折れなし,という.若さゆえの直情径行と純真さは,隣接する位置にある.一方で,大人の欲望にまみれて生きた経験からくる狡猾さを出すには,原田は初々しすぎ,可憐過ぎる.若さと強さの相克を象徴的に表現するには,明らかに「凄み」「しなやかさ」が不足している印象.大地に倒れたりんの身体の底からわき上がる子守歌,今は亡き祖母の懐かしくも厳しい声.

 ヘラクレスに扼殺された巨人アンタイオスは,大地のエナジーなくして起き上がることはできなかった.大地の女神に通じる母性は,盲目となったりんがお遍路で踏みしめる地からも,祖母の慈愛となって彼女を包み込んでいる.鈴の音としんみりとした音楽の使い方が巧い.脇を固める人物たちの位置づけは,きれいに分担されている.しかし,一人ひとりの行動原理を明瞭に描ききれていないところが惜しい.

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原題: 大地の子守歌

監督: 増村保造

111分/日本/1976年

© 1976 Kimura Productions, Koudousha