■「アンダルシアの犬」ルイス・ブニュエル

アンダルシアの犬 ルイス・ブニュエル監督 HDマスター [DVD]

 眼球を剃刀で真二つにされる女,路上に切り落とされた手首をみつめる女装の男,痙攣する掌を這い回る蟻の群れ‥‥脈略なく羅列されるイメージたち.ルイス・ブニュエルとサルバトール・ダリが生み出した観る者に忘れ得ぬ強烈な印象を残す映像.これは一体何を意味するのか?

 衛画家サルバドール・ダリ(Salvador Dalí)とシュールリアリストで“合理的解釈の拒否者”ルイス・ブニュエル(Luis Buñuel)のイマジネーションの結合作である.1920年代末のスペインで生まれたこの異色作が芸術史に占める「幸福度」の大きさは,常人には測りがたいものがあるだろう.

 剃刀で水平に切り裂かれる眼球,それを示唆した満月に懸かる雲.掌は蟻に食い破られ,血の涎(よだれ)を垂らしながら性的妄想に耽る女装の男,ロバの死骸を乗せたグランドピアノに繋がれた2人の修道士(片方はダリ).ダリの作品の意匠にもなっているドクロメンガタスズメを目撃した男女は,女の腋毛が男の口の周りに生え変わり,二人は砂浜に埋もれている.

 ここに論理的脈絡は皆無,悪夢的パラノイアの耽美な映像に陶酔するほかはない.既成のあらゆる芸術的・社会的価値体系を否定し,極端な反理性・反道徳主義を唱えた芸術運動「ダダイズム」の沸騰である.アバン‐ギャルドで秩序なき映像詩が,ダダイズムの中では独自に体系化されているように見える.一世紀にわたる驚嘆が濃縮され,これからも増幅し続けることは確実な17分の体感.

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原題: UN CHIEN ANDALOU

監督: ルイス・ブニュエル

17分/フランス/1928年

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