■「デビル」アラン・J・パクラ

デビル [Blu-ray]

 ニューヨークの実直な警官トムの家に下宿人としてやって来た純朴で快活なアイルランド青年ローリー.しかし,その天使の笑顔の裏側には,国際手配されたIRAのテロリスト"エンジェル"という"悪魔の顔"が隠されていた….

 作は,IRA闘士とアイリッシュアメリカ人警官の友情と対決を描くことを企画の主旨としているはずだが,そのボルテージを上げる定石を見事なまでに外し続けている.陰ある美貌のテロリストとなるブラッド・ピット(Brad Pitt)は,割と丁寧に役を作りこんでいる.下宿先の暢気なNY市警察官オミーラ/ハリソン・フォード(Harrison Ford)の大根演技は平常運転で致し方ない.

 とはいえ,アイルランド独立運動に身を捧げるマグワイヤーとの「擬似父子関係」を前半で構築しないことには,話にならない.傍目には好青年にしか見えないマグワイヤーが,垣間見せる凶悪な獰猛さをオミーラは鋭く感じ取らなければならなかった.よき家庭人だが,日々の警官任務に疑問を抱き始めるような愚鈍な男が,一転して機敏に国際テロリストを追跡する展開に苦笑.

 IRAの過激活動は1994年9月には停止していた.しかし当時の英国政府は保守派で占められており,アイルランドとの交渉が難航したことにより,イギリス軍や北アイルランドの警察組織RUCに対する破壊活動が96年から再開された.題材をアイルランド独立運動の過激派に求めながら,IRAシンパを襲撃したSI5(英国秘密調査局),カトリック系レパブリカン,プロテスタント系ロイヤリストなど政治的背景の説明を怠り,新旧スターの対決だけで凌ごうとした.ここに,この映画の致命的な失策がある.

 ピットの儚げな表情と涙の美しさで脚本の難をカバーするのにも限界があることを,はっきり露呈してしまった.ポリティカル・サスペンスの名手アラン・J・パクラAlan J. Pakula)の遺作が,これほどの凡作であるとは.1998年に不慮の事故で世を去ってしまったために,結果としての遺作となってしまったのである.その留保を考慮しても,パクラの哲学が微塵も感じられないのが残念だ.

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原題: THE DEVIL'S OWN

監督: アラン・J・パクラ

111分/アメリカ/1997年

© 1997 Columbia Pictures Corporation