■「幸福(しあわせ)」アニエス・ヴァルダ

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 舞台はパリ郊外のフォントネ.平凡だが実直なフランソワは,美しく裁縫が得意な妻テレーズと2人のかわいい子どもたちと暮らす.日曜日には家族そろってピクニックに出かけるような陽の光に祝福された幸せな日々を過ごしていた.そんなフランソワはある日郵便局員のエミリーという女性と知り合い,いつしか二人は深く愛し合うようになる.フランソワは二人の女性を同時に愛すことに喜びを覚え….

 に「愛人と両方とも愛しているから別れたくない」と告げる男の身勝手さに比して,軽妙洒脱な奏曲はヴォルフガング・アマデウスモーツァルトWolfgang Amadeus Mozart)《クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581》.大輪のひまわりに人影の頼りなさをとらえる撮影は,掴みどころのない「罪のなさ」が幸福の実体とでもいいたいのか.

 妻と愛人をリンゴの樹に喩えて,その花のいずれも美しいことを浮気の正当理由に挙げる夫フランソワに,妻テレーズは「貴方が幸福ならそれでよい」と寛容の姿勢を取ったかに見えた.その態度に安心しきった男の大胆さ,無配慮な放埓に,女は絶対的な抵抗を無言のうちに示した.その帰結として,浮気相手エミリーとの新生活が開始されたことをこの作品は示唆する.真正直に不義の容認を求めたフランソワに悪意はなく,そのエゴイズムとの正面衝突を避けたテレーズの哀れさ.

 なんら制裁も科されない夫の「その後」から,幸福とはある種の「いかがわしさ」を孕んで成り立つもの,とアニエス・ヴァルダ(Agnès Varda)は主張していると読める.「ヌーベルヴァーグの祖母」は,独善的欺瞞を男女の違いによって説明しようとし,男女の価値観は,突き詰めれば死生観の相違にまで行き着くと述べているのだろうか.そうではない.これは男女が主客転倒しても成り立つ不快な寓話である.

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原題: LE BONHEUR

監督: アニエス・ヴァルダ

80分/フランス/1964年

© 1964 Parc Film