■「黒船」ジョン・ヒューストン

黒船 [DVD]

 1856年,アメリカ人タウンゼント・ハリスは最初の日本総領事として下田に上陸.黒船来航におびえる村人はハリスを“野蛮人”と呼び冷遇し,開国に反対する攘夷派は,ハリスの宿舎に美しい芸者お吉をスパイとして送り込んだ.しかしお吉はやがて,ハリスが噂と違って親切な文明人であると気付き,二人は次第に惹かれ合う様になる.一方,開国をめぐる国内の混乱は頂点に達し,ハリスの身に恐るべき陰謀の影がしのび寄っていた….

 岡県下田の「黒船祭」は,例年5月の第3土曜日前後の3日間に開催される.幕末期,アメリ使節ペリー艦隊が下田に来航した事実を嫌悪しない「意思表示」としての記念的祭典であり,駐日アメリカ大使,米海兵隊も参加する友好行事となっている.通商を求めて来航した黒船は,ペリー艦隊以前にもヨーロッパ諸国の黒塗の船舶を指していた.駐日総領事に任命され,書記官を伴って1856年8月下田に着任したタウンゼンド・ハリス(Townsend Harris)は,下田奉行井上清直中村時万と交渉し,1957年に下田条約を結ぶ.

 下田上陸から数えると,大統領親書捧呈と通商条約交渉のため,江戸に向かうまでは1年2ヶ月あまり.病床についたハリスを看病したといわれる女性きちは,「唐人お吉」となって伝説化された女性である.彼の許を去るまで,きちは3日間ハリスの看護人を務めたとされる.これは,現在に継承される黒船祭の開催時日の暗喩ととらえてもよいだろうか.ジョン・ヒューストン(John Huston)により1957年10月から5ヵ月にわたる日本ロケーションによって製作された本作は,「アフリカの女王」(1951),「白鯨」(1956)ほどのスペクタルはない.

 東洋のエキゾチックな情景として,独特な雰囲気を出している.丸腰で下田の村民と格闘を繰り広げるハリス/ジョン・ウェイン(John Wayne)は逞しく,本作では間諜の芸者としてハリスに接近するきち(安藤永子)はいかがわしい.下田奉行田村左衛門守(山村聡)の凛々しい紋付袴.そして,伊豆でのロケーションはこの地の風土的雰囲気だけは伝えることに成功している.日本やアジアの風景をハリウッドのスタジオに繋ぎ合わせ,貧弱な日本像を登場させてきた本作以前の映画とは比べ物にならない.

 村を襲うコレラの脅威をウェインが焼き払う描写は,"BARBARIAN"への恩寵と慈恵という類の単なる脚色.欧米列強への対外従属を内容とする日米修好通商条約の調印を任務とするハリスは,尊皇攘夷を唱える者と開国を唱える二派の論争の理解もそこそこに,開国の義務を幕府に迫る.西部劇の代名詞ウェインが演じているからこそ,そのような無知と粗野も「ヒーロー」の未開地「地ならし」となって許される.あまり嫌味のない映画ではあるが,軽薄なヘゲモニーの礼賛というほかはない.

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原題: THE BARBARIAN AND THE GEISHA

監督: ジョン・ヒューストン

105分/アメリカ/1958年

© 1958 Twentieth Century Fox Film Corporation